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この好奇心は。
初めて主演した映画の完成披露試写会。
この日は関係者を迎えた一番最初の試写。
本編が終わり、エンドロールが流れ、私は隣に座る〇〇さんの表情を伺う。
どうだったかな?
面白かったかな?
うまくやれてたかな?
まっすぐスクリーンを見つめていた〇〇さんは、私の視線に気づいてこっちを見る。
私の表情から、察してくれたんだろう。
彼はニッコリ笑って、私にだけ聞こえるだろう小さな声で、
〇〇「よかったね」
そう言う。
なんでそんな優しく言うんだろ。
なんでそんな嬉しそうに笑うんだろ。
なんでそんな褒めてくれるんだろ。
夏鈴「……笑」
頬が緩んで、自然と私も笑顔になる。
〜〜〜〜〜
夏鈴「…気持ちいい天気」
〇〇「やね〜」
試写が終わり、インタビューや取材までのちょっとした空き時間。外の空気を吸いたくて、〇〇さんと少し外に出る。
夏鈴「…どうだった?」
〇〇「よかった。…正直思ってたよりもずっと」
夏鈴「…喜んでいい感じ?」
〇〇「もちろん笑」
〇〇さんはやっぱり笑ってそういう。
いつ頃からだろう。
なんというか…、一つ乗り越えた時、〇〇さんの顔を見るようになったのは。
最初は不安だったから。
自信がなかったから。
そういう時、〇〇さんを見ると、いつもこんな風に笑っていてくれてた。
だから、ホッとした。
うまくできてたかなって。
面白かったかなって。
気づいたら、目で追うようになった。
私がなにかやったら、そうやって笑ってて欲しいなって。私が〇〇さんを見る時、その笑顔で居てほしいなって。
そしたら、時々目が合うようになっちゃって、なんか照れくさいなって思ったりもする。
〇〇「夏鈴ちゃんは、役者さん向いてると思うで」
夏鈴「…そう?」
〇〇「うん。楽しない?」
夏鈴「……楽しい」
〇〇「でしょ?」
夏鈴「…けど、自信はあんまない」
〇〇「……」
〇〇さんは過剰に励ましたり、フォローしたりしない。ただ、私が話し出すのを待ってる。
自分はすごくよく喋るし、よく喋るメンバーともワイワイ盛り上がってるのに、私と話すときはのんびり待ってる。
夏鈴「…色んな人に色々言ってもらえるから…、んー…なんだろ」
うまく言葉に出来ない。
あんまり時間ないのに。
伝えたいこといっぱいあるのに。
夏鈴「楽しいって伝わるかなって。演技上手くはないけど楽しいから、それに応えたいっていうか…」
嬉しいんだって。
ありがとうって。
凄く楽しいんだよって、見てくれる人に伝えたい。
夏鈴「だから…、え〜…、ありがとう、見守ってくれて…」
結局何が言いたいかわかんない。
そんな私の拙い話なのに。
〇〇「どういたしまして笑」
夏鈴「……」
どうしてなんだろ。
安心する笑顔なはずなのに。
ドキドキしちゃうのは。
いつも見る笑顔なはずなのに。
もっとみたいなってなっちゃうのは。
嬉しい笑顔なはずなのに。
なんだか泣きたくなっちゃうのは。
〇〇「…人はさ、基本1個の人生しか生きられへんやんか?」
夏鈴「……」
〇〇「でも役者さんは、その作品ごとにその人物の人生を生きてるやんか。それって中々出来ることやないんよ」
嬉しそうに、楽しそうに。
〇〇「…きっと演技の仕事を続けていけば、夏鈴ちゃんの好奇心を刺激し続けてくれる人生がたくさん待ってると思うねん」
だから、って前置きして。
〇〇「夏鈴ちゃんには演技の仕事、続けてってほしいなって思ってる」
夏鈴「……」
ものづくりはすき。
何か一つのものを作るために、それぞれの専門家の人達が集まってきて、作り上げたらまたそれぞれの場所に帰っていく。
そういう流動的な、その瞬間にしか生まれない“なにか”はすごく美しく思える。
けれど、
夏鈴「…ずっとそういうこと、考えてる?」
〇〇「…ずっとかどうかはわからんけど、よう考えとるよ」
夏鈴「…そっか」
〇〇さんには、ずっとここに居てほしい。
離れず、近くに居てほしい。
甲斐甲斐しく世話を焼いてなんて言わないから、常に寄り添っていてほしいなんて言わないから。
傍で見守っていてほしい。
私が不安に思った時、笑顔でいてほしい。
傍で安心させてほしい。
夏鈴「…ありがとう」
〇〇「どういたしまして笑」
もっと貴方を笑顔にするにはどうしたらいい?
もっと貴方を楽しませるにはどうしたらいい?
もっと、もっと、貴方のことを知りたい。
もっと私のことを喜ばせてほしい。
もっと私のことを考えていてほしい。
もっと、もっと、私のことを知ってほしい。
もっと私を、好きになってほしい。
そのためなら、私はどこまで行けちゃうんだろう。
そんな私に、貴方はどんな笑顔を浮かべるだろう。
飽くなき探究心が、世界を変えるなら、
飽くなき好奇心は、私をどう変えていくんだろう。