出張喫茶チャイティーヨ 夏フェスに行こう! その3
翌朝、必要な物資をブースへ運び込み、僕らは開店準備を進める。
昨日の出来事は僕にとって思っていた以上に大きな出来事だったんだろう。どこか浮かれたくなるような気持ちだ。
飛鳥「昨日は随分お楽しみだったらしいじゃん?」
〇〇「っ!?」
いつの間にかすぐ後ろに飛鳥さんが立っている。
ついさっきまでブース前のイートインスペースで、アルノと話をしていたと思ったんだけど。
〇〇「…なんです、それ?」
飛鳥「アルノとひかるが言ってたよ。デートじゃないかって」
〇〇「はぁ!?」
なんてこと言ってくれるんだ、あの後輩達は。
飛鳥「まぁ、別にいいけどね」
〇〇「いやいや、どう考えても2人の冗談でしょ? 数年ぶりに会ったんで諸々話してただけですよ?」
飛鳥「分かってるよ、そんなこと。…そんな必死に否定すること?」
〇〇「いやいや、別に必死ってわけじゃ…」
飛鳥「…ふ〜ん」
ふ〜んが出ちゃったよ。
どうしよ。
飛鳥「年下に好かれやすいことで」
話はここまでと言わんばかりに、ぷいっと背中を向けて飛鳥さんは出ていってしまう。
ひかる「…どうかしました?」
飛鳥さんと入れ替わりに、ひかるがブースに入ってくる。
〇〇「ちょっと〜、飛鳥さんに変な話吹き込まないでくれる〜?」
今回くらいは恨みがましい視線を向けても許されるだろう。
ひかる「…えっ〜と、何のことですかね〜?」
〇〇「白々しいよ…」
ひかる「いや〜、つい…笑」
〇〇「つい…じゃないんだよ、まったく…」
ひかる「すいませんって笑」
〇〇「へらへらしちゃってさぁ」
ひかる「…ゆっくり話せましたか?」
〇〇「…うん。ありがとね」
ひかる「どういたしまして笑」
〇〇「…ごまかされないからね?」
ひかる「…ダメでしたか〜笑」
〇〇「あとでアルノもとっちめてやる」
昨日言ったお礼を返してほしい…。
〜〜〜〜〜
ひかる「アハハハ!」
〇〇「あー!忙しすぎてひかるが笑い出した!」
飛鳥「何その生態…」
〇〇「笑ってる場合じゃないよ!」
ひかる「ヤバすぎて逆に面白くなってきました笑」
〇〇「気持ちは分からないでもないけど!」
相応に準備と覚悟はしてきたつもり。
けど、実際は予想を軽々超えてきた感じ。
来場してきたお客さんは、タイムスケジュールを確認しながら、自身のお目当てアーティストの順番やステージを考慮しながら動くので、流れが読みづらかったり、人気のアーティスト前後には怒涛の大移動が始まるので緩急がすごい。
イートインスペースは一気に埋まることもあれば、細々と入れ替わりがあったりと波が凄くて、お昼時になるとカレーの注文が爆発的に殺到。テイクアウトは炭酸系のサッパリとしたドリンクとホットドッグが凄まじい勢いで、まさに飛ぶように売れる。
提供食器が捨てられる素材なことと、会計が事前にチャージした電子マネーによるキャッシュレス決済になっているのが救いだ。
美波「飛鳥さーん!このままいくと今日中にホットドッグ用のパン全部飛んじゃいますよ!」
〇〇「…こっちもモヒート用のミントが今日中に吹っ飛びますね」
ひかる「今日だけで、何杯作ってるかもうわかんないです笑」
飛鳥「うーん…」
アルノ「ホットドッグ5!楊貴妃ソニック2、モヒート3でーす!」
ひかる「うわ〜!」
〇〇「…ホットドッグのパンは美月さんトコで発注して搬入してきたやつなんで、追加は見込めませんし、ミントも現地調達は厳しいでしょうね…」
飛鳥「…だなぁ」
〇〇「…パンは今日で売り切って、以降はフランクフルトで行きますか?串に刺して提供でもいいですし、皿提供するならキャベツは追加発注して、ザワークラウトにするか、カレーソテーにして添えればいけると思います」
単品提供とカレートッピング用に、ソーセージはかなり多めに仕込んで搬入している。美波さんが姉妹店に向けて試作と試食を繰り返している力作だ。単体でも十分戦えるクオリティなのは間違いない。
飛鳥「…うん、それでいくかぁ。ミントが半分切ったらモヒートも止めよう。明日の分に回す。カレーも明日分は取っておこうか…」
〇〇「ですね」
飛鳥「楊貴妃は仕込み足せる?」
〇〇「いけます。ジンも追加発注できますし、一晩で抽出できます。茶葉もたっぷり持ってきました」
飛鳥「よし。とりあえず昼時をなんとかしのご。カフェタイムになったらアルコール切って、山程仕込んだコールドブリューコーヒーと焼き菓子系で営業してもいいし…」
〇〇「了解です」
飛鳥「頼んだ! 梅、えんちゃん、ホットドッグなんだけど…」
飛鳥さんはキッチンへ。
〇〇「さ〜て、なんとか凌ぐよ…」
ひかる「がんばりまーす!」
アルノ「飛鳥さぁ〜ん!早く帰ってきてくださいよ〜!」
バッシングとオーダーにてんてこ舞いのアルノ。
うーん、可哀想だから、とっちめるのはやめといてやろう。
〜〜〜〜〜
飛鳥「取り敢えず落ち着いたか…」
〇〇「モヒートは本日分完売です」
飛鳥「ホットドッグも打ち止め…」
〇〇「まぁこの時間まで保ってよかった…とは行かないですよね」
只今15時を少し過ぎたところ。
やや昼時の混雑も過ぎ去り、腰を据えて食事をする人も減っては来たものの、スケジュール的に遅めの昼食を取る人たちもいる。
飛鳥「…理想は明日の昼で売り切りだったなぁ」
〇〇「難しいもんですねぇ」
飛鳥「経験が足りてないからなぁ。しょうがないと言えばしょうがないんだけど」
う〜んと腕組する飛鳥さん。
飛鳥「…休憩回すか。〇〇とひかるから行ってきな」
〇〇「2人ずつで大丈夫です?」
飛鳥「ホットドッグとモヒートが切れたからね。キッチンは梅一人でも回せるだろうし、ドリンクも私とえんちゃんでなんとでもなるでしょ。アルノが慌ただしい時は私がフォロー回るから」
〇〇「…わかりました。ひかる、休憩行こう」
ひかる「はーい!」
僕らはブースを出て、体を伸ばす。
ひかる「うーん、すごい勢いでしたね」
〇〇「ほんとにね…」
昨日の前夜祭もなかなかの人だったが、本番を迎えて更に活気がすごい。
ひかる「さて、何か食べますか?」
〇〇「そうだね…、ただその前に行きたいとこがあるんだ」
ひかる「…あぁ、なるほど。じゃあ行きましょうか笑」
僕らはチャイティーヨのブースからほど近く、ハイボール屋台へとやって来た。
〇〇「流石に賑わってるなぁ」
ひかる「…でも回転早いですね」
列はできているものの、どんどんお客さんは流れていく。
〇〇「じゃあ、並ぶかな。ひかるはどうする?」
ひかる「せっかくなんで一緒に並びますよ。由依さんのバーテンダー姿もみたいですし」
〇〇「それもそっか笑」
いざ並ぶと列はサクサクと進み、あっという間に僕らの番が回ってきた。
〇〇「お疲れ様です」
深川「あ〜、お疲れ様!」
〇〇「塩麹レモンハイボールと、ローズハイボールを一つずつお願いします」
深川「はーい。由依ちゃん、ローズひとつ」
由依「はい」
ひかる「お疲れ様です」
由依「お疲れ〜」
2人はそれぞれシェイカーにウィスキーとシロップを投入。シェイクする。
深川「どう、チャイティーヨは?」
〇〇「めちゃくちゃ盛況で、もう売り切れ出しちゃいました…」
深川「それはすごいね…」
由依「ひかるもドリンク?」
ひかる「はい。モヒートいっぱい作りましたよ笑」
由依「そっか笑」
ひかる「…私も早くシェイク覚えたいなぁ」
〇〇「帰ったらやってみよっか」
ひかる「はい!」
シェイクされたウィスキーをソーダで割って、2つのハイボールが出てくる。
深川「おまたせ」
〇〇「ありがとうございます!頑張ってください!」
深川「ありがとう、〇〇もね」
〇〇「由依ちゃんも、ありがとう」
由依「どういたしまして。ひかるも頑張ってね」
ひかる「はい、ありがとうございます」
ハイボール屋台を離れ、僕らは周りの屋台で食事とひかるのドリンク買って、ベンチに腰掛けた。
〇〇「じゃあ、いただきます」
ひかる「いただきまーす」
塩麹レモンは麻衣さんの、ローズは由依ちゃんの考案のハイボールらしい。あともう一種類は明日来る有名なバーテンダーさんの考案だそうな。まだ仕事もあるし、そちらは明日機会があれば頂こう。
ひかる「どうですか?」
〇〇「うん、どっちも美味しいよ」
ひかる「うーん、こういう時早く大人になりたいなって思っちゃいますね」
〇〇「まぁ、もうすぐでしょ笑」
ひかる「そうなんですけど」
他愛のない話をしながら、僕らは食事を済ませて少しゆっくりとする。
〇〇「ひかるは昨日、由依ちゃんとゆっくり話せたの?」
ひかる「はい、おかげさまで」
ひかるはふっと視線を空へ向ける。
夏の空は青く、広い。
開放的な雰囲気に、音楽、美味しい食事。
みんなが楽しんでいるのが雰囲気からも伝わる。
ひかる「…〇〇さんはもう由依さんが3年になってからのダンス部の話は聞きましたか?」
〇〇「…うん」
ひかる「私達が入った頃、傍から見ているだけではわからない、張り詰めた空気というか…、緊張感がダンス部にはありました。
それは別に悪いことじゃないと思うんです。そういう空気感が高いクオリティのパフォーマンスを生み出してるのも確かだと思ったので」
周囲の賑やかさ、喧騒がどこか遠くのものに感じられる。そんな寂しさをひかるから感じた。
ひかる「私達はまだどこか他人事というか、ただただ目の前に提示される目標に必死になって取り掛かるだけで、なにもわかって無くて…。
けど、少しずつ確かに、摩耗していく先輩達の姿に怖さと恐れと、それを上回る憧れと、感動みたいなものを感じてました…」
普段はとにかく明るくて、お茶目なひかるだから、そんな顔は初めて見たかもしれない。
ひかる「秋の終わり頃だったか、冬の始まり頃だったかな…。それまでダンス部の中心にいた、一人の先輩が休みがちになりました。きっとすぐ帰ってくる。そう信じて先輩達はフォローしあって、フォーメーションを組んだり、振りを入れ直したりして…」
由依ちゃんがいうところの“すごい同期”の子。
ひかる「…みんなちょっと空気が重くて、それでも考えすぎないようにして頑張ってました。
その頃ですかね、天ちゃんや夏鈴ちゃんから〇〇さんの話をちょこちょこ聞くようになったのは」
〇〇「えっ、そうなの?」
ひかる「はい笑 バイト先に来る見た目はすごい不良なのに、年下の私達にすごいタジタジになってる人がいるって笑」
〇〇「…なんか恥ずかしい」
ひかる「その話をしてる時は、由依さんも理佐さんも笑顔で、私は顔も名前も知らない〇〇さんにちょっと感謝してたんです」
〇〇「……」
知らなかったな。そんなふうな話が出ていたんだ。
ひかる「…由依さん達が3年になって、私達も2年になって…、休みがちだった先輩が転校していって…。ダンス部は大きく変化せざる得なくなりました」
由依ちゃんが言ってた変化の時期。
ひかる「早めに引退する先輩方もいて、フォーメーションや選抜されるメンバーも大きく変わりました。しばらくは今までの実績もあって、色々期待してくれる声もあったんですけど…」
けど…。
変化はいつだって望まれて起きるわけじゃない。
変わらなくてはいけないけれど、変わってほしくないと願う気持ちを持つ人だっている。
けど、形あるものはどうやっても変わっていく。
変わらずにあるのは形のない、目に見えないものだけ…。
ひかる「…このままでいいのかなってそう思い悩む日々が続いて…。ありがたいことに、新体制になってセンターを任せてもらうことも増えて、けどその分、プレッシャーを感じることも増えて…」
3年がいる中で、2年のひかるがセンターに立つ。
プレッシャーを感じて当たり前だろう。
ひかる「…そんな時に由依さんが言ってくれたんです。“ひかるには象徴でいてほしい”って。
無理しなくていい。ただ思うまま、感じたまま、ありのままのひかるを大事にして。それだけでいい。そんなひかるの姿をみんなに見せてあげてほしい。
そうすればきっと、大丈夫だからって」
明るくて、お茶目で。
何事も一生懸命挑戦して、ストイックで。
よく周りを見てて、気配りや気遣いに溢れていて。
そばにいる人を大事に思う。
そんなひかるを見て、由依ちゃんは託したんだ。
由依ちゃんは目の前で、プレッシャーや期待に苦しむ人を見てきた。
ひかるもプレッシャーを感じるかもしれない、期待が重荷になってしまうかもしれないってきっと思ったはずだ。それでもハッキリ言葉にしたのは、由依ちゃんにとっても勇気のいることだったんじゃないかな。それでも、ハッキリ言葉にしたのは、ひかるに対する信頼があったからじゃないかな。
この子ならって想いと、今度こそ支えようって想いとか。これは僕の想像でしかないけど…。
ひかる「たくさん助けてもらって、支えてもらって、だからこそ、気になったんです…」
空へ向けていた視線がこちらに向く。
ひかる「…学年が上がってから、由依さん達も天ちゃん達も〇〇さんの話をしなくなったこと…」
そう。
僕はその頃、彼女達と一緒にいなかった。
辛い時期、大変な時期に、そばにいなかった。
ひかる「…ある日、天ちゃんと夏鈴ちゃんが話してるのを聞いたんです。アルノちゃん、当時の私は〇〇さんと同じ部活の後輩の子って認識しかなかったですけど。その子の教室まで行ったけど、あまりに寂しそうな顔してたから話しかけられなかったって」
〇〇「……」
ひかる「ごめんなさい…。責めたいわけじゃないんです…。その、私の…なんというか、気持ちの整理がしたくて…」
〇〇「うん、続けて」
ひかる「…いて欲しかったなって。そう思いました。今居てくれたら、きっと由依さん達も笑う時間がもう少し増えたかな…とか。どうして後輩に寂しい顔させてるんだろうって…」
〇〇「…ごめん」
ひかる「あぁ…、だから、そうじゃなくて…。その、それで、一年経って、3年の皆さんが卒業して、由依さんも上京して来れなくなって…。それからしばらくして、突然天ちゃんと夏鈴ちゃんが大はしゃぎして“お客さんが来る”って言い出したんですよ」
〇〇「…それがあの日?」
ひかる「はい。〇〇さんがダンス部に見学に来た日です。…すいません、正直今更どうしてって思ってました。なんで由依さん達がいるうちに来てくれなかったんだろうって」
〇〇「…まぁ、思って当然だよね」
ひかる「…こんな言い方しておいてどうかと思うんですけど、ホントに責めてるわけじゃないんです…。どっちかと言うと、謝りたくて…」
〇〇「謝る?ひかるが?」
ひかる「…ホントに天ちゃんも夏鈴ちゃんも嬉しそうで…。じゃあ私も実際会って確かめてみようって、そう思ったんです。私があの日、〇〇さんに話しかけたのはそのためで…」
ひかるは改めてこちらに向き直り、頭を下げる。
ひかる「すいません、試すみたいなことして」
〇〇「謝るようなことしてないよ。今更出てきたやつがどんなやつか確かめたかっただけでしょ?」
ひかる「…確かめる必要なんて別になかったんです。2人が楽しそう。それだけで十分なのに…」
〇〇「心配だったんでしょ? それはひかるの優しさだよ」
ひかる「…ありがとうございます。あの日実際に〇〇さんと話して、2人が楽しそうなの見て、安心しました。この人を責めるのはお門違いだって、そう思いました…」
ひかるはまた空へ視線を向ける。
ひかる「それからしばらくして、チャイティーヨのイベントにお邪魔した時、アルノちゃんが〇〇さんから受け取ったライブチケットを抱きしめてるのみて、あぁ私、本当に失礼なことを考えちゃってたなって反省したんです…」
〇〇「……」
ひかる「私だって、しばらく来れてなかった先輩が復帰して来てくれたら素直に嬉しいに決まってる。そんなの、少し考えればわかりそうなもんなのに」
ひかるはずっと気にしてたんだろう。
そんな風に思っていたことを申し訳ないなって。
そんなこと、気にしなくていいのに。
ひかる「…そんな事を考えていたからか、夢を見たんです」
〇〇「夢?」
ひかる「…私は天ちゃん夏鈴ちゃんとBuddiesでバイトしてて、そこには由依さんと理佐さんもいて…。お客さんとして〇〇さんとアルノちゃんがいて…」
浮かべる笑顔は少し寂しげ。
ひかる「もし、私も天ちゃん達と一緒にバイトを始めてたら…。由依さん達と一緒に働いてたら…。もっと早く〇〇さん達と出会ってれば…なんて。どうしようもないたらればなんですけど笑」
もっと一緒に皆で笑えてたかな。
たくさん感謝を伝えれてたかな。
〇〇さんに失礼なこと、考えずに済んでたかな。
なんて。
ひかるは冗談めかして言う。
ひかる「…けど昨日、由依さんと会えて、たくさんお話してわかりました。私は来るべくしてチャイティーヨに来たんだなって」
今ひかるが浮かべている笑顔は、僕がよく知るひかるの笑顔で。
ひかる「もしBuddiesで働いていたら、私は今ここにいなくて…。昨日みたいに由依さんと話すことも、会うこともなかったし、こうやって今日〇〇さんと改まった話をすることもなかったと思います。運命なんて言い方すると重たいですけど、私がチャイティーヨに来たのは、きっとここに来るためだったのかなって…」
その笑顔で、本当にそう思ってるんだってことがよくわかる。
ひかる「感謝の気持ちをもっと伝えたかったんですけど。本当に、本当に感謝している時って、ありがとう以上の言葉が見つからないんですよね」
たくさんのものをもらって。
たくさん支えてもらって。
感謝してもしきれない。
そういうことなんだろう。
ひかる「〇〇さんも本当にありがとうございます」
〇〇「僕?」
ひかる「はい。由依さんも理佐さんも。天ちゃんも夏鈴ちゃんも。あの頃も今も、楽しそうだから。
出会ってくれて、笑顔でいさせてくれて、感謝してます。私も色々話して、教えてもらって、感謝してます。由依さんと話せるように気を使ってくださったことも、嬉しかったです。…だからこそ、2人にも話してほしくて…」
〇〇「…なるほど、昨日のはひかるが取り計らってくれたんだ?」
ひかる「そんな大げさなことじゃないですよ笑 ただ、お2人も話したいことはあるだろうから…」
美青ちゃんと話したときもそうだけど、本当に周りをよく見てて、気遣いや心配りが出来る子だ。
由依ちゃんがこの子に託したもの、残したもの。
ひかるが由依ちゃんから受け取ったもの、引き継いだもの。きっとたくさんある。
けど、象徴になって欲しいって由依ちゃんがひかるに託すと決めたのは、きっとひかるが元々持っていたものを見込んでのことなんだろう。
小さな身体から想像もできない存在感と、人を笑顔にする明るさとお茶目さ。果敢に挑むストイックさや変化を恐れない心だったりとか。
〇〇「ありがとう、ひかる」
ひかる「…どういたしまして」
一瞬、何のことだろうって戸惑ったみたいだけど、すぐにひかるは笑顔で応えてくれた。
〇〇「…あと、ごめんね」
ひかる「…こちらこそ、自分勝手な納得のために責めるみたいなっちゃってごめんなさい」
申し訳ない顔をして、すぐひかるはニコリと笑う。
ひかる「じゃあ、コレで終わりにしましょ!お互いに引け目感じるの」
〇〇「…うん、そうしよう!」
お互いに笑い合う。
ひかる「…話してよかったです」
〇〇「…僕も、話してもらえてよかった」
心の何処かに、見えないふりしたり、今更こんなこと言っても、なんてしまい込んでいたもの。それは確かにあって、なかなか自然と消えてはくれなくて…。昨日今日と、それらを整理するための時間が僕らに訪れたことは偶然なんだろうか。
それこそ、重たい話だけど、運命なんて言葉を少しばかり信じてしまいたくなる。
いつだったか、奈々未さんが言ってたな。
“人は必要な時に必要な人と出会う”
それはきっとこういうことなんだろう。
僕が麻衣さんから受け取ったものとか、
ひかるが由依ちゃんから受け取ったものとか、
そんな大きなものを渡してはあげられないだろうけれど、僕から渡せるものは可能な限りこの子に渡していきたいなって思う。
僕とひかるの付き合いは決して長くない。
けど、僕らはそれぞれ大事な人達から受け取ったものがあるから。
大事に思うものがあるから。
応えたい期待があるから。
美青ちゃんの時と同じで、僕らは一緒なんだ。
同じなんだって確信を持って言える。
〇〇「そろそろ行こっか」
ひかる「…はい!」
よく出来た後輩で、
教え甲斐のある弟子で、
頼りになる仲間。
そんな存在が誇らしく思える。
麻衣さんが僕に向けてくれる想いや、気持ちが少しだけ分かった気がする。
そうやって僕に向けてくれた想いや、受け取った気持ちを、僕からひかるへ渡していこう。
これもきっと、一つの恩送りなんだと思う。
〜〜〜〜〜〜
飛鳥「さて、取り敢えず今日を乗り切ったわけだけど…」
営業終了後、片付けと明日のための下準備を済ませてホテルに戻ってきた僕ら。皆一様にシャワーを浴びて、僕の部屋に集合。
…落ち着かない。
飛鳥「反省点が多いな…」
美波「ですね…」
〇〇「改善できる点はするにしても、食材類の見込みは本当に難しいですね…」
普段の営業と違う点があまり多すぎる。
今日の影響は明日に取り戻せる通常営業とは違い、今回は切れてしまえば追加できない食材も多い。
普段は売りになるこだわりが、逆にこの手の営業だと足かせになってしまう。
飛鳥「結局終盤は、ほぼただのコーヒースタンド」
〇〇「うーん、夜カフェ的な使い方はあまりされませんでしたね〜」
普段の営業ではお酒は飲めないけど、夜に落ち着いた場所でゆっくりと過ごしたい。
そんなお客さん達の憩いの場として、夜喫茶チャイティーヨは好評を頂いてるけど…。
さくら「まぁ、そもそも賑やかな場所ですからね…」
飛鳥「まぁ、勉強にはなった」
〇〇「明日は自動的にやや縮小メニューですし、今日よりオペレーション自体はスムーズに行けるでしょうし、引きずらずに頑張りましょう」
飛鳥「だな。これも経験か…。アルノとひかるはよくやってくれたし」
アルノ「頑張りました!」
ひかる「モヒートにただならぬ自信がつきました」
〇〇「頼もしいな笑」
飛鳥「おし、じゃあ今日は解散。早く寝てよ〜。寝不足で熱中症なんかなったら許さん」
〇〇「それは散々すぎる…」
飛鳥「じゃ、おやすみ」
梅澤「おやすみ〜」
さくら「ゆっくり休んでね〜」
アルノ「おやすみなさーい」
ひかる「失礼しまーす」
〇〇「おやすみ〜」
女性陣が出て行き、なんとも言えない残り香…、じゃなくて残り気配?みたいなものにソワソワしつつも、寝る準備を進める。
僕らは皆、今日の反省を胸に、明日の営業へ想いを馳せ、眠りについた。明日巻き起こるトラブルのことなどつゆ知らず…。
夏フェスに行こう!その3 END…
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ライナーノーツ
更新遅れました、すいません。
夏が終わっちまうぜ。
色々ソワソワが多くてなかなか…。
落ち着かないなぁ。嬉しいことですが。
ひたすらアンビバレントを聴きまくりながら、あの頃のことを思い出しつつ書いたその2とその3。
てちが不在で、音楽番組に出るたびセンターとセンターメンバーの振りが変わるという今考えると恐ろしくメンバーに負担のかかる構成でしたが、ただ見る分には新鮮で、欠かさず追っかけてたなぁ…。
モンビバとか何回見直したかわからん…。
その頃から、ヒリヒリとした終幕への気配みたいなのはあったんだけど…。
次回で夏フェス回もおしまい。
アラカルトの終わりも近いです。
よろしくお願いします。
次のお話。
前のお話。
シリーズ
シリーズ本編