鎧袖一触。
〇〇「……」
とある撮影の合間。
俺はその場で立ち尽くす。
夏鈴「……?」
天「どうしました?」
端から見て、皆どう思うだろう。
現実から切り離されたようなこの空気感、世界観。
それらを放っているのは10代20代の女の子で。
改めて、稀有な存在感を放つ子達と仕事をしているなと思い知らされる。
夏鈴「ちょっと…?」
天「おーい!」
〇〇「あぁ、ごめんごめん」
俺はゆるゆると歩みを再開して、2人の元へ向かう。
天「どうしました?急にぼ〜っとして」
〇〇「いやぁ、今日もバチバチにイケてんなぁっと思って笑」
夏鈴「なにそれ…笑」
〇〇「いやいや、ほんまにエグいで」
確認用にタブレットに送ってもらった写真を2人にも見せる。天も最近インスタグラムを開設したし、後でいくつかピックして2人にも送ってやろう。
更新のいいネタになるはず。
夏鈴「…いいね」
天「うん、いい…」
普段の2人は、メンバー内でも特別大人びたタイプではないと思う。
3期生の加入で最年少でこそなくなったけど、天は13 歳から一緒に仕事をしてるし、その頃からグループ有数の元気娘。大人びてきていてもその天真爛漫さというか、明るさは、見ている人も元気にする。そんな太陽みたいな子。
夏鈴ちゃんはオーディション当初からすると、かなり大人っぽくなったと言うか、落ち着きが出てきたようにも見える。まぁ、見えるだけで同期からすれば甘えん坊だし、無邪気な所や負けず嫌いな所も垣間見えたりする。でもやっぱり、基本はどこかマイペースな月のような子。
2人は正反対に見える。在り方も、考え方も。
それでも表現者としての2人は、一緒にプロフェッショナルとしての一面を魅せることがここ数年ぐっと増えたように思う。
2人は写真という媒体に、けっこう力を入れている。
それはモデルの仕事であったり、単純に趣味の延長であったり、自己表現の一端であったり、様々な形で。それの一つとして、2人は自身のインスタグラムはもちろん、互いのアカウントや投稿も巧みに扱っているように思う。
月と太陽のように満ち欠けあったり、もしくは一つの塊から分かたれた物のように、自然と噛み合ってるような…。
2人の関係性は、そんな感じがする。
夏鈴「またボーッとしてる」
天「大丈夫ですか?笑」
〇〇「あのね、俺だって感傷に浸るときぐらいあんねん」
夏鈴「…似合わない笑」
天「…確かに笑」
〇〇「…装いに合わせて、なんかヒドい奴らになってないか?笑」
写真を一つ、タブレットに表示。
〇〇「どうみても危ない仕事引き受けてそうやで笑」
夏鈴「それ、〇〇さんが言います?笑」
天「…確かに笑 今日ヒットマンだもん笑」
現在の俺は、移動中に手を壁にぶつけた結果、軽く出血してしまい、スーツや書類を汚さないように、絆創膏を貼った上に黒い手袋を着用中。
結果、スーツ姿に黒手袋。
確かに暗殺者スタイルかもしれない。
〇〇「もしかして怪しい集団と化してる?」
天「皆揃って強そうかもしれない笑」
夏鈴「せめてカッコいいにして…笑」
他愛ないな。
そう思う。
日々、彼女達は成長し、進化し、
新たな領域へ至り、人気を高めている。
多忙を極める。なんて言えば人気者の素晴らしい毎日かもしれない。一般的な同年代の女性たちと比べて、華やかで刺激的な毎日かもしれない。
それでも、1人の人間で、1人の女の子で。
そういう感性を無くしては欲しくない。
甘っちょろいかもしれない。青春を、普通を、人並みの生活を犠牲にするからこそ生まれる物もあるだろう。それ故に、“あの頃”は恐ろしいまでに強く激しく輝いていたのかもしれないけど。今も尚、忘れがたく残る日々ではあるけれど。
“あの頃”と“今”はもう違うものだと、そう言える気もする。どっちがどうとかじゃなくて。
別のものだと。そう言える気がする。
〇〇「……」
まぁ、並の存在じゃ相手にならんよ、これは。
それだけは間違いない。
夏鈴「…あの」
天「…ねぇ」
声が揃って、俺はタブレットから顔を上げる。
視界には、お互いの声が揃って顔を見合わせる2人。
どちらからともなく笑うと、
夏鈴「…そんな見たいなら、ここにいるんですけど」
天「写真ばっか見てないで、こっち見たらいいじゃないですか笑」
〇〇「……笑」
ずっと見てるけどね。
それじゃまだ足りないんかい?