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だぼ。

〇〇「さっっっぶ!!!!!」
村山「ヤバ…」

高2の冬。
期末考査も終わり、じき冬休みが来る頃。
1年の終わり頃、〇〇からの提案に乗り、勉強を始めた頃から恒例になっている、返却されたテストの反省会。ファーストフードのドリンクとポテトなんかで1時間ほどやいやいとツッコミを受けた。
悔しいけど、〇〇は相方と馬鹿ばっかり言い合ってるくせに、私のおもりなんかしてるくせに、成績は私よりもずっといい。

〇〇「…しっかし思った以上に伸びたなぁ」
村山「…まぁ、やれば出来る女ってことで」
〇〇「自分で言うかね!?」

後は年明けの学年末考査。
こんな事を言う時が来るなんて思わなかったけど、正直、何とでもなりそうな気がしてる。
自分でも驚いちゃうけど。

〇〇「しっかし風もあるから余計寒いな」
村山「確かに…目乾燥しそう」


〇〇「お前それ前見えとんのか?笑」
村山「失礼な、見えてるから…」

目を細める私を見て笑う〇〇。
少し前の私だったら、容赦なく殴ってたと思う。

変化の多い1年だった。
それこそ去年の今頃、髪を何色にしようかばっかり考えてた気がする。冬の風に目を細めても、それを馬鹿にしてイジってくる相手なんかいなかった。
それこそ当時ならそんなイジり、不愉快に感じるだけだったろうな。

深い意味があったわけじゃない。
でも何かまとわりつく、この不自由さから、窮屈さから、逃げ出したかった。
髪色を変えただけで何が変わるわけでもないけど、それでも何かを変えたかった。
ただ流されるままの日々に、一石を投じたかった。

〇〇「この調子で行けば、来年の生徒会選挙も問題ないやろ」
村山「これで落ちたらマジで恨むから」
〇〇「えぇ、それ俺のせいなん?」
村山「こんだけやって、出て、普通に落選とか恥ずかしすぎでしょ。マジで怒る」
〇〇「えぇ〜…」

髪色を変えて、人間関係の煩わしさは確かに軽減されたけど、代わりに教師からのお小言が追加された。まぁ、当たり前なんだけど。
結局窮屈さも、不自由さも変わらずあって、少しばかり面倒な人付き合いに距離をとって、なぁなぁに高校生活を過ごしていくんだろうって。
そう思ってた。
けど…。

〇〇「もう今年も一ヶ月切っとるで」
村山「なに、急に…」
〇〇「ん」

〇〇が顎で指した先は、街路樹がイルミネーションで飾り立てられている。

〇〇「否が応でも年の瀬を意識させられるで」
村山「あぁ…」

人付き合いを遠ざけていた。
実際、染めてすぐの頃はほとんど周りに人はいなかった。けど、今となっては、いつの間にか髪を染める前より友達が増えた。

村山「興味ある?」
〇〇「なにが?」
村山「……イルミネーション」
〇〇「…あると思う?」
村山「絶対ない笑」
〇〇「そこまで言われるのも心外やが…、まぁ、ないなぁ」
村山「だろーね笑」
〇〇「めちゃくちゃ笑うやんけ」
村山「マジで似合わないから笑」
〇〇「失礼のバーゲンセールでもやってんのか?」
村山「はぁ〜、ウケる笑」
〇〇「まとめ売りなんか? そういうお前はどうやねん」
村山「私? まぁ、人並みにはあるよ」
〇〇「……」
村山「…何その顔」
〇〇「意外やなぁって、痛っ!?」

そこそこの力で突き飛ばしてやる。

〇〇「笑顔で人を車道へ向けて突き飛ばすな!」
村山「結構距離あったじゃん笑」
〇〇「そういう問題かだぼが!」
村山「出た。だぼってどういう意味?」
〇〇「アホって意味!」
村山「ふ〜ん…」
〇〇「興味ないなら聞くなや!」
村山「アハハ笑」
〇〇「めちゃくちゃしよるでこの女」
村山「ごめんって笑」

ふと視線を上げると、目に入るものがある。

村山「…お詫びにココア奢ったげようか?」
〇〇「…珍しいやん?」
村山「…私が飲みたいだけだったり?」
〇〇「……ほな、そういうことにしとこうか」

そういうとこは聞き分けいいよね。
…まぁ、あとはその一言が余計だけど。

村山「…ん」
〇〇「どーも。頂きます」
村山「はい、どーぞ」
村山・〇〇「……アッヅ!!」

村山・〇〇「…笑」

お互いにココアの熱さにめちゃくちゃ驚いて、
どっちからともなく笑って。

〇〇「何をやっとんねん俺らは笑」
村山「ホントそれ笑」

迫る年の瀬に浮足立つ街。
それを笑えないくらい、はしゃいでる。

〇〇「あー、びっくりした」
村山「あー、しんどい笑」

こんなのが来年も続いてくのかな。
…続いたらいいな。

村山「…〇〇はクリスマスなんかすんの?」
〇〇「あ? 海外のとあるお方のお生まれになった日とその前日が、俺になんか関係あるわけ?」
村山「ほんっっっとそういう言い回しするよね」
〇〇「ためんなためんな」
村山「ひねくれてる」
〇〇「ド正論ストレートパンチ」
村山「そりゃ、サンタさんも来ないわ」
〇〇「なに、俺を泣かしたいんか?」
村山「泣いても許さないけど」
〇〇「いつの間にか俺が許しを請う側に…」
村山「…で、予定は?」
〇〇「あるわけ無いやろ、両日バイトじゃ」
村山「…あっそ。…皆で遊びに行ってあげよっか?」
〇〇「なにみんなて」
村山「…女子会」
〇〇「そんな時くらい洒落た店行けよぉ〜!」
村山「うるさいな。どこ行くかなんて私達の自由じゃん」
〇〇「せやけどさぁ…」
村山「クリボッチにやいやい言われたくないし」
〇〇「やかましわ!ほっとけ!」
村山「はいはい」
〇〇「テキトーにあしらうな!」
村山「…多少はそういうイベントとか、意識してないといざって時困るよ」
〇〇「なんやねんいざって」
村山「いざはいざ」
〇〇「ふ〜ん…」
村山「興味ゼロすぎでしょ笑」
〇〇「そんときゃそんとき」
村山「お勉強ばっかりしてると、頭でっかちになっちゃうんじゃない?」
〇〇「お前はまだ頭でっかくしてもええで」
村山「ムカつく…笑」
〇〇「学ばなあかんことが多くてなぁ」
村山「贅沢」
〇〇「ほぉ、覚えとったん?」
村山「私のことバカだと思ってるでしょ?」
〇〇「あの頃は間違いなくバカやったけど?」

何も言えない。
確かにバカだったし。

村山「勉強は嗜好品なんでしょ?ただやればいいってわけでも、難しいのを解ければいいってわけじゃない。だっけ?」
〇〇「そやな。自分に必要な物を学べりゃそれでええ。でも大抵の人間は必要な勉強なんてすぐにはわからん。将来何になるかも分からんし。必要になってから学ぶんは大変やしな。だから、今のうちに学べるもんは学んどけ。将来関係ない事まで学べるなんて贅沢なことや」
村山「…理屈っぽいというかなんというか」
〇〇「何とでもおっしゃい!」
村山「…だからモテないんじゃない?」
〇〇「なんでやねん!!いいこと言っとるやろ!」
村山「そういうところがなぁ…」
〇〇「なんで説教されなあかんねん…」
村山「……それがわかんないからじゃない?」
〇〇「…はぁ〜?」
村山「頭よくてもそれじゃあね」
〇〇「わっけわからん」
村山「はいはい、寒いから早く帰ろ」
〇〇「腑に落ちんなぁ」


女心もわかんない“だぼ”だからじゃないの?


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