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03.入院生活とギプス地獄 

「ギプスという名の拷問器具」

入院生活は、まさに地獄のフルコースだった。

まず、病院食。これがもう、まごうことなき「試される味覚」。
アレルギー対応のせいで刺激ゼロ、そして驚異のローテーション献立。「今日は何かな?」なんてワクワクしたら負け。100%デジャヴの味がする。

そして冷凍野菜の乱用。彩りはあるが魂はない。もういっそ点滴でいい。いや、むしろ点滴のほうがまだマシ。

食後の薬を飲むだけでもギプスが邪魔で、いちいち看護師さんに「開封お願いします」と懇願する始末。こんなの、もう生活じゃない。

病室のホラーSHOW

入院生活に適応しようと努力するも、最大の敵は同室のご婦人。

「まぁ、地震ですって!」「飛行機事故ですって!」「最近の男の子って化粧して綺麗だけど、どう思う?」

売店で買ったお菓子をバリボリ食べながら、ニュースキャスターのごとく話しかけてくる。しかも無限に。

夜はカーテン開けられなかったけど、昼は別だった。

「最近の男の子って化粧して綺麗だけど、どう思う?」

突然、ニュースキャスターばりの話題提供。
無限に続くトークに適当に相槌を打ちつつ、スマホをいじる。

すると??

「にちゃあ」

ふと視線を感じて顔を上げると、
ご婦人がじっとこっちを見ながら、ゆっくり微笑んでいた。

(!?!?!?!?)

いや、何その笑顔!?
なんの感情!?
しかも、一回じゃない。

何度も、何度も、じっとこっちを見つめながら「にちゃあ」ってする。

(やめて!それが一番怖い!!!)

こっちはギプスの痛みで動くのもしんどいのに、
なんか知らんけど、
「にちゃあ」ってされるたびに心臓に悪いダメージを受ける。

…………この病室、
もはや痛みよりメンタルのほうが先にやられるんだけど。
そして極めつけ。

深夜2時、病室は静まり返っている……はずだった。

…………コツ、コツ、コツ……

深夜2時。
病室は静まり返っている。

なのに、足音がする。

規則的に、ゆっくりと、病室内を行ったり来たりする足音。

(え、ナース?)

いや、違う。

足音の方向を見ると??

例のご婦人が、無言でベッドの周りをぐるぐると歩いていた。

無表情で、まっすぐ前を見つめたまま。
ただ、歩く。歩く。歩く。

目的は……不明。

ナースコールを押すべきか?
でも、下手に動いたらこっちに気づかれそう。
いや、そもそも「気づかれる」って何? なんでそんなホラー的な発想してんの?

そう自分にツッコんでみるが、
目の前の光景が、どう見ても 「人間じゃない何か」 にしか見えない。

そして??

ピタッ。

突然、足音が止まる。
彼女は……カーテンの向こうでこちらを見ていた。

(やめろやめろやめろやめろやめろ!!!!!!)

「痛くて寝れないんでしょう」

いやいやいやいや、
絶対寝かせる気ないだろ!!!!!!

眠れない。
いや、もうこれ完全に心霊案件。

怪我の痛みよりも、病室の怪奇現象のせいで精神が崩壊寸前。ちなみに消灯後、ジャック・ニコルソンばりに「おやすみ♡」と囁いてくるというホラーオプション付き。

ギプスという名の拷問器具

左腕には、脇近くから指先までガッチリとギプス。
この世にこんな邪魔なものが存在するとは。
服を着るのも一苦労、寝る時も落ち着かない。何をするにも「ギプス様」の機嫌を伺わなければならない生活。

──だが、本当の地獄はここからだった。

ギプスの擦れ。
これがもう、拷問級。

骨折した箇所よりも、肘の内側や腕の付け根の方がズキズキ痛む。
寝返りを打つと…

ビリッ!!

電撃のような痛みが走る。

「ッッッ!!!」

叫びたいのを必死にこらえる。

ただの違和感じゃない。
皮膚が削られるような、神経を針でグリグリ刺されるような、そんな痛み。

「この痛みが、手術まで続くのかぁ……」

気が遠くなる。
痛み止め?
気休めレベル。
もうこれは、耐久レース。

ただひたすら、時間が過ぎるのを待つしかなかった。

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