断頭台の男

――「俺は無実だ!」次の瞬間、刃が滑り落ちる。
 観衆は息をのむ。次の瞬間、鮮血を迸らせ首が転がった。
 死刑執行人は首を容器に収め立ち去る。
 観客の一人、小柄な男は罪人の言葉が気になり、幾らか考えてみたが、真実か確かめる手段もなく、帰るほかなかった。
 一週間が過ぎ、
 小柄な男はいつものように農作業に従事していた。
 その時、
――「俺は無実だ!」罪人の声が響き、導かれるように声がした方向へいくと、背の低い木が生い茂り、太い枝にロープをかける女性がいた。
「そこの女性、何があったかは知らないが、早まってはいけない」
 小柄な男は女性を抱きかかえ、事情を聴くことにした。
「実は‥‥‥」
 どうやらその女性は、処刑された罪人の妻らしく、夫の死を苦に自殺しよいうとしていたらしい。
「主人は無実なんです。役人に罪をなすりつけられたんです。その証拠もあるのですが、誰も取り合ってくれず、悔しくて悔しくて」
――「俺は無実だ!」
 声の方向に振り返ると、フードを被った剣士風の男が、剣を振りかざしていた。小柄な男は咄嗟に体当たりをし、もみ合いの末、女性が大きめの石を剣士風の男の頭部に振り下ろす。
 動かなくなり、事なきを得た。
「この男、役人の近衛兵だわ。屹度、口封じに」
 女性は小柄な男を見てさらに続けた。
「よく、近衛兵に気付きましたね」
「ああ、聞こえたんですよ。ご主人の声が」
 その時、女性は何かを見て泣き崩れる。
 小柄な男は振り返ると、
 そこには処刑された男が立っている。
 一瞬、笑顔になり、姿が薄くなって、霞となって消え去った。

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