便利な薬
病院にやってきたK氏は、深呼吸をし、医師に言った。
「先生、私、引っ込み思案で困っているんです。好きな女性がいるのですが、なかなか話かけることも出来ず、悶々としていて」
「ここは病院、私にどうしろと。頑張ってくださいとしか言えませんが」
「そこをなんとか。もうどうしようもないんです。仕事でも嫌とは言えず、いつも損してばかりで」
医師が机の引き出しから、茶色の薬瓶をだし、K氏はそれを見て聞いた。
「それは、何の薬ですか」
「性格が真反対になる薬です。正確には、その傾向が強まる効果があるものです」
K氏は喜び勇んで、薬瓶を持ち帰った。
数日して、血相をかいてK氏が病院にやってきた。
「先生、私、積極的になり過ぎて困ってしまいました。好きな女性の家に押しかけて告白したら、彼氏持ちで、しかも堅気ではではない・・・」
「それで、どうしたんです」
「逆鱗に触れたようで、顔を覚えたとか、殺すとか、血の気が多くて」
「それで、どうしろと?」
「元に戻してください。このままでは、何をしでかすか分からない」
「わかりました。これで最後ですよ」
医師は再び、薬瓶を渡した。K氏はその場で飲み干し、足早に帰っていった。帰り道、猛烈な後悔がK氏を襲う。彼女の家に連絡もなしに押しかけた上、彼氏が出てきても、執拗にアプローチ。悪態までついては、脅しをかけられても致し方ない。
絶望的な心持ちのなか、自宅アパートにつくと、彼女の男が待っていた。
「申し訳ない。あの時はどうかしていたんです、謝ります」
「こちらこそ、殺すなんて言って脅して申し訳ない」
「もしかして・・・」
K氏が言いかけて、彼女の男は返した。
「あの病院です。私は激高しやすい性格に困っていて。今はこの通り、穏やかになれたのですが、問題が起きてしまって」
「問題?」
「彼女もあの薬を飲んで、性格が嫉妬深くなってしまい、些細なことで、ヒステリーを起こしてついさっき、刃物を持ち出して」
その時、彼女が刃物をもって、、。