籤(くじ)
青年が乗っていた船は、海図ない島に座礁。
生存者は他になく、なくなく島を探索することになった。するとあっさりと、集落が発見できた。
それは、すきま風がはいりそうなほったて小屋が十軒程度ある、簡素なものだった。
それらが取り囲むように、中央に広場があり、十字架のようなものが聳えている。人はいないものかと、青年は歩いて周っていると、気づいたころには人間に囲まれていた。
服はいくらか襤褸であるものの、不潔な雰囲気はなく、真っすぐに青年を見つめていた。
「あの、この島って、どういう、、」
島民の男の一人が、ちょうど手が入りそうな穴が空いた箱を木製の台座に置いた。
「すいません、ちょっと」
青年を無視し、島民たちは次々と籤を引いていく。
ひとりの、細身で目がすこし窪んだ男が赤い紙を引いた。
崩壊寸前のダムのように表情筋を震わせ、その場にしゃがみ込んでしまった。まわりの男たちは細身の男の腕を抱えあげ、十字架を見上げる。
周辺の島民たちは足場を用意し、淡々とした様子で細身の男を十字架に縛りつけていく。
青年が空を見上げると、曇天だった。分厚く灰色の雲がたちこめ、不穏な空気を漂わせている。
女たちが小屋から、手作りであろう石槍をもって来て、男たちに渡していく。細身の男は観念したのか、目を閉じ、口を結んでいる。
その直後、次々と石槍の鋭い刃が突き刺さっていく。
そして、顎髭の男が心臓を一突きにした。
細身の男は吐血し、絶命した。
顎髭の男は青年に、満面の笑みを浮かべていった。
「ようこそ。漂流者の島へ。よろしく頼むよ」
「はい」
青年は従う他なかった。
小屋をあてがってもらい、夜になると顎髭の男は昼の出来事を説明した。
資源が限られる島では、新たな漂流者がやってくると、籤ひいて一人死ぬ。それによって、無用な争いを避けているとのことだった。
幾日か過ぎ、島での生活にも慣れたころ、
巨大な戦艦が島にやってきた。
島は徹底的に調査され、いくつもの遺体が掘り起こされた。島民全員が救助され、また、殺人に関わった者たちは裁判にかけられ、刑に処された。
青年の手は汚れていなかったため、当然、無罪放免、
国へ帰る途中の甲板で、風に吹かれながら、つい漏らした。
「何がよろしく頼むよ、だ。只の人殺しじゃねぇかよ」