ハラペコ一般男性

 彼はある日あまりの空腹で、家にある食料をすべて食べてしまった。それでも足りず、スーパーとコンビニをハシゴし、甘いモノから辛いモノまでしこたま買い込んだ。
 喰い尽くしてしまった。
 それでも足りない。
 その後も、
 食べて食べて食べて食べ足らず飽き足らず。
 食べて食べて食べて食べ余ることもなく。
 彼は余すことなく、とりあえず、近所のコンビニの商品を買い占め食い尽くした。やはり、とめどなく近所のスーパーまで買い占めて食い尽くした。
 金が尽きた。
 しかし食欲は尽きない。
 そこで彼は、倫理観という奴が邪魔していることに気付く。
 捨てた。
 彼はありったけの刃物と歯で自宅アパートの住民をバリバリと、食い尽くした。流石に警察を呼ばれたが、難なく、警察官もお尻から被りついて食いちぎって、骨ごとバリバリと喰い貪り、ぬらぬらしたピンクや赤褐色の臓物もぺろりと胃に流し込む。
 刃物は捨てた、必要なかった。
 その調子で、街中の人々食って排泄したために、食い残しの肉片と汚物で地獄の様相を呈する。
 ついには自衛隊と米軍と警察隊が出動するが、
 やはり、
 難なく食い尽くす。彼に生命力に近代兵器も歯が立たない。
 関東地方を喰い尽くすころには、全長が1.5キロメートルを超え、スピードはマッハ2を超えるほどに成長した。
 日本は無人となった。
 全世界による核攻撃の集中砲火も、無駄に終わった。
 すべて打ち尽くしても、彼は微塵も勢いを止めず、世界中を文字通り飛びまわり、両翼をバッサバッサと羽ばたかせ、
 66日後。
 全人類を一人残らず食い尽くしてしまった。
 本意ではないが、他の生物も食べ尽くした。
 だが、
 それでも、
 彼はハラペコだった。
「指、ポリポリしてて、いい食感してるな」
 あっという間に両手足をかみ砕く。
 その後、両腕と両足の膝から下を食べ尽くす。
 背骨を折りながら下半身を貪り、自然と首がもげて、上半身までよく噛んで食べきった。
 口の周り。歯のとどく範囲を食べ、そのあとは如何ともしがたく、非常にくやしいことだが彼は、
 餓死した。
 死に顔は、満足しきった穏やかなものだった。
 世界は静寂に包まれ、残った種による新たな時代の幕開けを待っていた。

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