砂漠の一滴

 男は無性に、喉が乾燥し、千切れるような感触に悶えていた。
 激烈な日光、熱気を帯び空気の澱んだ空間、圧力により体力は限界を迎えていた。
「水‥‥‥水‥‥‥み」
 人影だ。
 前方に、蜃気楼のように揺れている。幻ではない。
 喉が乾きを振り払うように、男は目をこらした。
 人間だ。
 間違いない。
「男か、そうか、ま、いいか、別に――」
 男の目はトロンとして、口角が上がり、長身の男に向かっていった。
 目を血走らせ驚く相手の顔面を殴り、そのまま押し倒した。
 馬乗りになり、
 力いっぱいの拳を振り落とす。
 力いっぱいの拳を振り落とす。
 力いっぱいの拳を振り落とす。
 力いっぱいの拳を振り落とす。
 力いっぱいの拳を振り落とす。
 力いっぱいの拳が外れ砂を抉る。
 力いっぱいの拳をひと呼吸をおいて振り落とす。
 長身の男の顔面は腫れあがり、歯は砕け、動かなくなった。
 男は、
 長身の男に口づけし、口腔内に溜まった血液を吸った。
 あまりに強く吸うので、あっという間に血液はなくなった。
 懐から刃物を取りだし、ところどころ肉を抉っては、血液を吸い、抉り出しては吸い尽くす。
 血が喉を通過していく。
 立ち上ると風が吹いた。
 一時の潤いは、流砂とともに消えた。
 男は一切の人影も、物陰のない砂漠に埋没した。

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