包帯男

 目覚めれば病室。
 白く清潔な室内。
 床頭台を挟んだベッドの包帯男に目がいった。
 包帯の隙間から眼球がのぞき、すこしも動かそうとしない。まるで死んでいるようで不気味で、現実味がなかった。
 それはそうと身動きができない。
 そして記憶がない。
 事故にでもあったのだろうか。
 その時、ガチャリとドアが開く音がした。
 男性医師だ。
 近づいてくると、カチャカチャと音を立て、目の前で作業をし始める。何をしているのか。
「すいません、体が動かないんです。どうなってるんですか」
「大事故が起きたんです、車が何台も巻き込まれるような。あなたは重傷を負い、先ほど手術が成功し、病室で安静にしているところです」
 医師は作業を終え、病室をでようとドアノブに手をかけた。
「体、いつになったら動かせそうですか。先生」
 医師はひと呼吸おき、淡々とした口調で答えた。
「体なら、隣りのベッドにありますよ。詳しい話は明日。安静にしていてください」
 医師が部屋をでると、男は思考を巡らせた。
 隣のベッド。包帯でぐるぐる巻きの、一向に動かない包帯男。
 次の瞬間、看護師たちがはいってきて、包帯男をストレッチャーに乗せて「あのすいません」という男の言葉を無視し、病室を出ていった。
 そして、
 液体で満たされたポッドだけが残された。
 その中には、ピンクがかったクリーム色の、
 脳があった。
 人工の眼球がキョロキョロと、ポッドの上部で動いていた。
 

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