いまどき露天商を見かけた青年は、肉体労働の帰り、背筋にくる疲労感に包まれていた。
 夕暮れの赤い日差しを背に、気づけば店主のおじさんの前にしゃがんで、商品を見ていた。
「鍵、ですか」
「そうだよ。ゆっくり見てきなよ。見るだけならタダだから」
 ありとあらゆる鍵が雑多にブルーシートの上に並べられていた。それぞれに二つタグがついていた。
 値段と住所。
「すいません、これ、その、住所――」
「気にすんなって。飾りみたいなもんだよ、お飾り」
 青年は胸騒ぎを感じつつも、興味本位で一つ一つ見ていく。ここは東京だが、住所は北は北海道、南は沖縄まで幅広く、特に法則性はない。
 単なるおふざけなのか。そもそも、鍵を売るということ自体意味がわからない。不気味すぎる。
 もう空は暗くなりだしている。青年はいい加減帰ろうかと立ち上がる。
 すると、ひとつの鍵が目に入った。
 青年は青ざめ、額から汗を流す。手早くその鍵をを取り、金を払う。
 心臓は早鐘を打ち、足早にその場を立ち去った。
 

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