彼らの惑星
N星人の使節団に呼ばれ、ある国の元首が宇宙船に向った。ボディガード二人と、秘書を連れて、船の奥に通された。彼らとは何度も通信によって接していたが、何が目的なのか。友好的なら良いのだが、もしかして、侵略が目的かもしれない。そんな不安を抱えながら、元首は彼らと対面した。
「どうも地球のS国の元首しております。さっそくですが、どのようなご用件でしょう」
元首は翻訳機を使用して、彼らの顔色を伺ながら言った。
「貴方たちは非常に友好的で、我らの元首も気に入っておられます。つきましては、我らの惑星に招待したいのです」
「それはありがたい。我々も使節団を組んで、是非、お伺いしたい」
「では、日程のほどを、、、」
彼らとはその後も実りある会談をし、その日は宇宙船を後にした。帰りの政府専用機内で側近が言った。
「彼らは何が目的なのでしょう。本当に、単なる外遊で済むでしょうか」
元首は一瞬、逡巡し、窓の外を見た。
「恐れていても仕方がない。いつかは行かなくては、いけない。彼らとの接触は避けては通れないだろう」
多国間での議論を重ね、万難を排し使節団を編成し、彼らの迎えの宇宙船に乗りこみ惑星へ向かった。
それは、青く美しい惑星だった。大気圏に突入し、着陸すると、緑が広がり空は広い。空気も澄んで、それはそれは豊かな土地だった。
宙を浮いた乗り物に乗り換え、この惑星で最も大きな都市に案内された。
何と表現しよう。人間の想像を超えるセンスであり、遠くから見ると幾何学模様を複雑に組み合わせたようだ。待ちゆく人は皆笑顔で悠然としている。 ある庭園の施設に案内され、待つように言われ、彼らは何か用があると去っていった。
ボディーガードを四方に配置し、側近と共に外へ出ると、そこには美しい木々の緑と、滝や川がながれる空間があった。
「なんというか、素晴らしいです」
側近がつい、感嘆を漏らした。元首はボディガードを引き連れ、少し逍遥(しょうよう)することにした。まるで均整のとれた芸術品のなかを歩くようで、非現実感さえあった。
しばらく行くと、ドーム型の建物に辿り着く。警戒しつつも、中を覗くと、皮膚が赤く、牙の鋭い人間が檻の中に数人いた。それを、『彼ら』が楽しそうに見ている。
「あれは、人間?」
側近が言った。
「いや、似てはいるが偶然じゃないか。広い宇宙だ、似たような種族がいてもおかしくないだろう。それに、アレがなんだろうと我々に出来ることはない。一応、報告用に記録をとっておこう」
側近はカメラでそれらを記録し、その場を後にする途中。それは、宙に浮いた車が行きかう車道の先。人影が見えた。元首はそれに気づいた。
「おい。あれは、なんだ」
「人間、いや、どうでしょう。あ、行ってしまった」
人影は高層ビルの隙間に消えた。
「まぁ気のせいだろう。この惑星に降り立った人類は、我々がはじめてなのだから。きっとな」
元首一行は彼らに案内された施設に戻った。それからすぐに、彼らが戻ってきた。
「それでは、我々の元首が待っています」
荘厳なサグラダファミリアのような建造物に案内される。小柄で、真っ白な服を着た彼らの元首と、長いテーブルを挟み、会談が始まった。
この惑星の歴史や、文化、経済などの説明を受ける。人類も、用意した資料を提示し、しっかりとアピールした。その他に流行のこと、家族のことなど会話は弾み、会談の最後で彼らの元首が言った。
「今回は良い話ができた。これからは良い関係が結べるでしょうな。次は、我々が地球へ伺いたいものです」
「是非、お待ちしております」
元首は笑顔で答えた。そして、彼らの宇宙船に乗り、一行は地球へ帰っていった。それを見送った彼らの元首と側近は、研究施設に向った。
そこには、人間が透明な液体で満たされた円筒に入れられ、ずらりと並んでいる。
「順調なようだな。人類のクローンも完成間近だ。これを量産できれば、いい商売になる」
「元首。実は昨日、人類のクローンが逃げ出しまして、すでに捕獲しましたが、彼らは自由を好む生き物のようです」
「そうか。まぁそんなものだろう、従順になるよう改良すればよい」
「もし、人類がこの件に気づいたら、どういたしますか」
彼らの元首は、落ち着いた、冷淡な声で言った。
「その時は人類の、戦闘用に改良したクローン軍隊で、分からせればよい」