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シクラメン
反り返った花の形も、不思議な柄の葉っぱも、トータルの立ち姿も、全部そんなに素敵だとは思わなかった。200円のシクラメンなら98円のパンジーを買うことを選び、園芸1年生の頃は花屋の売り場でも見て見ぬふりをしていた。そもそも室内花なのか屋外向きなのかも初心者にはよくわからない。値段も数百円から始まって贈答用の高級なものだと一万円近くする。これだけ値段の振り幅が大きいと、何をどう選んでいいのかわからない。
ところがなぜか今年になって急にシクラメンが気になり出した。
たぶん、きっかけは、秋の園芸イベントに親切にも同行してくれた、園芸に興味のない友人がその場で急に購入した寄せ植えセット、その中の真っ赤なガーデンシクラメンが脳裏に焼きついたからに違いない。その寄せ植えセットは、ガーデンシクラメン、ビオラ、コニファー、なんらかのシルバーリーフという、何の捻りもない冬の定番だったが、お手本のような寄せ植えを作ったことがない筆者は、平凡なセットだなと思いながらも、真っ当な入り口から園芸を始めようとする友人に微かな嫉妬すら覚えていた。センスある友人は、ちょっと変わり種を勧めようとする筆者の余計な囁きをかわし、お手本セットにもうひと苗加えたいと、八重咲きと思しきカルーナの苗を買い足した。ちらっと目に入っただけのカルーナを瞬時に選ぶセンスには、嫉妬を通り越し、自分が苗についてアドバイスしている状況に恥ずかしささえ覚え始めた。
翌日から、筆者は無意識にYouTubeでシクラメンの勉強を開始していた。ついにガーデンシクラメンとシクラメンの違いを理解した。高植えという植え付け方法も学んだ。夏越しの方法も予習した。そして、満を持してシクラメンを買いまくった。
ところが、シクラメンのほうは、買ってきた当初の蕾が咲き終わると我が家では新しい花芽が上がらない。これは何かと同じ、あのアンスリウムたちである。ここでシクラメンを咲かせることができれば、アンスリウムが咲かない原因も一挙に突き止められるかもしれない。
まず、週に1~2日間だけ置き場所を変えてみた。室内の、なるべく窓際でもっとも自然光が入る位置に移動させた。期待した変化はなかった。むしろ、日が経つにつれて株元が滑り始めた。ある疲れた日、心を落ち着かせようとそのシクラメン第一号の傷んだ葉と花をぶちぶちやっていたら、葉っぱ3本しか残らなかった。
次に、別の室内の窓際特等席に常設させ、水やりの頻度をあげた。水やりをサボりたい鉢は、ビニールポットに植え替えたうえでアクアセルキューブを受皿に配置し、サボりの準備を整えた。しかもこの窓際はちょっと肌寒い。すると、花芽が上がってきた。第一号も小さな変化ではあるが復活の兆しをみせている。ということは、光量と水が足りなかったことに加え、シクラメンには低い気温が必要だったとみえる。隙間風ぐらいの風も奏効したのだろう。しかし、残念ながらこれでは熱帯植物のアンスリウムには応用できそうにない。
そして、12月に入って十数鉢目の新入りを迎えてようやく気づいたが、秋の室内の日当たりのよい場所は、空気のきれいな寒冷地から運ばれてきたシクラメンにとっては暑すぎたようである。花つきがよくないのは日照不足と思い込んでいたが、十数鉢目の新入りが、12月とは思えない暖かな日中の日差しにあてた後ぐったりしたことで、日中の気温が上がったせいで具合がよくなかったのだと理解できた。人間が気持ちよく日向ぼっこできる陽気は、シクラメンには暑いようである。
ガーデンシクラメンのほうは外で元気にしている。やはりベランダといえども自然の風と光のもとでは健康に育つ。しかし、乾かし気味に管理すべしという情報は大ウソで、体感ではパンジービオラよりも水を要求してくる。アクアセルシート上の子は、アクアセルの水分だけでは足りないようだ。草花界隈の指導者や教科書が言う「乾燥気味」とは、タニラーや水やりサボり隊にとっては「水が好き」と同義なようだ。鉢植えの子らは、中心の球根に水がかからないように水やりしないと機嫌を損ねるようで大変面倒である。確かによく見ると、シクラメンの姿は、中心に雨があたらないように葉が傘の役割をして球根を守っているように思えてくる。
しかし水が足りないと、数日先の未来の花芽にパワーが行き渡らないような手ごたえを感じており、花を咲かせるには水をやり続けるしかない。手間をかけた数日後に開いた花は、切り花にした時の花持ちが抜群な(気がしている)ので、やっぱり水やりはサボれない。時々忘れた頃に液肥をやっているが、肥料の効果はさほど感じられない。
ちなみに、クリスマス短日処理勢、鉢花のカランコエには1年目で飽き、シャコバサボテンは今年も見てみぬふりを続けているが、とうとうポインセチアには手を出してしまった。シクラメンとの相性はとてもよい。