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空色に、白い猫の毛1本。

30分ほど車を走らせて辿り着いたスーパー銭湯。
久しぶりに来てみた。
空は文句なしの快晴。青一色だ。心も晴れる。
青と一言で云っても200種類以上あるらしいので、これは「空色」と呼んでおこう。
いや、待てよ。
東西に目を向けるとやや白くグラデーションしているので、一色ではない…。でも、まあ、今日ぐらいは細かいことを考えるのはやめにしよう。

人工の瀧が見える露天風呂で、足を伸ばす。ついでに両腕も。文字通り『大』の字になって全身でお陽さんを浴びる。もはやこれは入浴ではなく日湯浴(にゆーよーく)。実にくだらない。
こんな晴れやかな気分にも関わらず、しょうもないことを考えてしまっていた。

平日の昼間とあってそんなに混んではいない。お客さんはおじいさんばかり。この中だと「この若造が!」と言われてしまうほど若くはないが、自分はまだ若い!と思えてしまう。世間的には到底受け入れてもらえないだろうが、そこそこの年齢になっている。しかし、わたしはまだ若いと、抗っている。靴下だって片足で立ったまま、どこにももたれずに履ける。これは、ちょっとした自慢。今年の春から作業療法士として就職をする息子に言わせると、「たいしたもん」らしい。そんな年齢だ。

満点の開放感の中、息子と露天風呂に「大・大」の文字を広げながら、同じタイミングで「あ〜」と胸の奥から飛び出してくる声を漏らしていた。
先述の通り、この春から新社会人となる息子は、4年間の大学生活を終え、国家試験に合格をし、晴れてとある病院へ就職することになった。「おめでとう。ご苦労さん。ありがとう。」と、心の中では嬉し泣きをしている。言葉では言わない。なぜか言えない。つい口に出る言葉は「社会はそんなに甘くない。」「それはゴールではない。スタートだ。」なんて、偉そうなことを言ってしまう。それに対して息子も、「わかってる。知識より経験だ。これからも学びの毎日だ!」と、おそらく「うるさい」と思いつつも、わたしに合わせてそのように答えてくれているのだろう。これまでの子育ては一応、成功のようだ。妻にも心から感謝している。(つもり…。)

来週からは社会人として、医療人側の人として「仕事」が始まる。まさか、自分の息子が患者さんから「先生」と呼ばれる仕事に就くなんて思いもしなかった。中学時代の担任の先生も、高校時代のどの教職員の先生方も、異口同音に「嘘つけぇ!」「それはありえない!?」と、笑っておられた。
大学の先生方も、息子の化けっぷりに驚愕されていた。大学3年になった頃、「勉強が楽しい」と言い出した時は、病院に連れて行った方がいいのでは…?」と、妻と笑っていた。

思えばわたしも勉強が好きだった。これこそ、「嘘つけぇ!」と怒鳴られてしまいそうだが…。
好きではあったが決して賢くはない。地元の工業高校を卒業してすぐに就職をした。(誤解を解くためにも付け加えておくが、工業高校が悪いなどと云うことでは決してない!むしろわたしはこの工業高校を誇りに思っている。)
貧乏ゆえに机を買ってもらえなかったわたしは食卓で勉強(宿題)をしていた。それを見た父親に、「勉強ばっかしてると、アホになるぞ!」と怒鳴られた。今、どっちにしてもアホになっていた。

息子と仰いだ空色。
大の字になって吐いた感嘆のため息。
空色のキャンパスに、白い猫の毛でも貼りついたかのように、飛行機が残した白い跡。それはすぐに消えていく。
お湯から出ていた肩から顔にかけて、少し日に焼けたようだ。
今度この空を見るときは、共に社会で働く1人の男同士の会話になるのだろうか。
白い跡を残して消えたあの飛行機に乗って、世界中を飛び回る医療人になっているかも知れない。
親バカと呼ばれるほど、褒め言葉はない。わたしは、喜んで親バカになろう。

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