テディベア
入院中、母の事で辛い思いはたくさんしたが
1番許せず辛かった事がある。
母はたまに交際相手を連れて面会に来ていたが
その際、その交際相手から見舞いの品があったりした。
お菓子や小さな雑貨だ。
私は心を殺して感謝し
本当に喜んでいると相手が満足できるような演技をして
2人が帰るとベッドの枕の下や
備えつきの収納の奥底に隠した。
捨てれる大きさのものはすぐに捨てた。
夜になると父が来てくれるからだ。
妻帯者と自慢げに交際し女として優越に浸っている母。
上から目線で何の繋がりも無いのに軽い言葉と共に贈り物をする男。
そのんな相手からもらったものを
父の目に触れさせたくなかったからだ。
そんなある日
いつも5分も滞在しない母と交際相手が面会に来て
交際相手が大きなテディベアを自慢げに渡してきた。
母は”ほら、お礼を言いなさい。良かったね。”と女の顔で言った。
いつもの様に私は喜ぶ演技をし感謝の言葉を伝えた。
心の中がどす黒くなった。
こんなに大きなテディベア、どこに隠せばいいのだろう?
どうしようもなくベッド横の椅子に置いておいた。
夜、父がいつも通りに面会に来てくれた。
テディベアを見て
”おぉnina、これどうしたんだ?”
と聞いてきた。
”ママの会社の人がくれた。”
私は考えていた嘘を伝えた。
すると父は嬉しそうに
”良かったなぁ。
ほら、みんなお前が早く元気になるのを願っているんだぞ。
早く元気にならなきゃな。一緒に頑張ろうな。”
と私の頭を撫でながら言った。
胸が張り裂けそうだった。
泣くのを頑張って堪えた。
そのテディベアはそんな綺麗なものなんかじゃない。
くれた男は当たり障りない会話しかしてこず
早く母とその後行くであろう場所に行きたがっていた。
それなのに、あんなに嬉しそうで優しい父の笑顔。
嘘をついた事に罪悪感を感じた。
父の優しさや愛情に泥をぬってしまった様な気がした。
でも、父は母がちゃんとした母親として
私達姉妹の為に頑張っていると思っている。
本当の事はとても言えなかった。
それと同時に母に初めて強い憤りを感じた。
毎夜父が面会に来ている事を母は知っていた。
なのになんで娘の気持ちも父への配慮も考えられないのだろう。
私だけ我慢すればいいのに、何んで何も知らない父まで
汚いコトに巻き込むの?
父が帰った後、私は泣いた。
父への罪悪感で泣いた。
両親の離婚からまだ1年も経っていない。
母は自分がした事の残酷さを
分かりはしないだろう。
今、同じ母として女性として人として
当時を母を酷く軽蔑する。
我が家には息子達のテディベアが2つある。
それで遊ぶ息子を本当に愛おしく思う。
それでもたまに私が受け取った
テディベアの事を思い出してしまう。
nina