【詩《うた》う】ふつうって何?

ふつうはコワイ。

わたし、ふつうの人だし。特別じゃなくて構わない。ふつうが一番。期待するから裏切られ、欲が出るから失敗する。ふつうにごはんが食べられて、ふつうに寝るところがあって、ふつうに暮らしていけたらそれで満足。

そんなふつうってなんだか白々しい。

わたしがわたしを見限るとき、ふつうでいいの。
という言葉がほとばしる。

とるにたらない存在だと口にする一方で、全体主義になだれこみ、いともたやすくふつうではないことをやってのけることにもつながるのに。

ふつうは、ふつうと言わないかぎり、ふつうとしてはあらわれない。

上の言うことには逆らわず黙って「はいはい」ってふつうに働いていればいいのに、それができないんじゃ外されてもしかたない。

みんながふつうにやっていることに疑問を持ってもはじまらない。変わらずこれまでやってきたのだから、これからだってそうするしかない。それってふつうのことでしょ。

学校はなんのために行くの? 勉強するためでしょ。だったらおしゃれする必要なんかない。そんなことに気をつかいだしたら勉強しなくなるって、ふつうそう思うでしょ。だから髪染め・パーマ禁止っていう校則はふつうだよ。目くじら立てるたことじゃない。

会社はなんのためにあるの? 儲けを出すためでしょ。そこに尽くしてこそ毎月給料がもらえるんだから、仕事が終わらなかったらふつうに残業するでしょ。

家族は支え合うのがふつう。自分が育てた子どもがおかしくなったら、自分の責任なんだから、クニに助けてもらおうなんて言語同断。ふつうに自分たちでどうにかしなくちゃ。

戦場では敵か味方かしかないんだから、物影が見えたらふつうに撃つし、そこに敵が潜伏していると思ったらふつうに爆弾落とすよね。だって戦争なんだもの。ふつうなら人殺しは罪だけど、ふつうじゃない状況なんだから反対のことをすることがふつうになる。

そんなふつうって何だろう?

ほんとうはふつうなんかない。ふつうと口に出した瞬間から指しているものは色彩を帯る。発した人の頭に浮かぶふつうは、いったい誰のふつうで、なんのためのふつうなのだろう。それは自分を殺す言葉につながりもする。

でも、ふつうがあるから、ふつうという語があるのだとすると、ふつうがないわけじゃないんじゃない?

特別じゃなくていい、ふつうでいいの……は、逆説的な訴えとして耳に響く。だれかの、なにかの、特別な存在になりたいという思いが込められているかのように。それはしかしきっと、えらい人にお墨付きを与えられてよしとすることじゃない。

ふつうは永遠。

ふつうに生まれて、ふつうに死んでいく。
生と死があるっていうことだけは、ふつうに誰もが持っている運命だから。

昨日とは違う今日、今日とは違う明日、ふつうに見えてふつうではないわたしの営み。あなたの瞬間の味わい。それらがたしかに交じり合うとき、ふつうではない風景が目の前に現れる。のでしょう。

 

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