昭和の青い鳥⑥

アオイはコンサートのチケットを手にしてから、毎日の仕事にさらに精を出していた。いつものように雑貨屋で働きながら、心のどこかで来週の土曜日を楽しみにしていた。しかし、そんなある日の昼下がり、店に一人の老婦人がやってきた。


その婦人は上品で、どこか気品のある佇まいをしていた。年齢はかなり上だが、どことなく芯の強さを感じさせる人だった。彼女は店内をゆっくりと見回しながら、アオイに目を留めた。


「あなた、ちょっとこちらに来てくれる?」と、婦人は穏やかな声でアオイを呼び寄せた。


アオイは少し戸惑いながらも、婦人のもとに近づいた。「はい、何でしょうか?」


婦人はアオイをじっと見つめた後、満足そうに頷いた。「あなた、若くてとても美しいわね。私の名前は佳子。オーダーメイドの洋服店を経営しているの。今、新作のワンピースを作っているんだけど、あなたにそのモデルになってもらえないかしら?」


突然の申し出に、アオイは驚きを隠せなかった。「モデルですか?私が…?」


アオイは戸惑った表情を浮かべ、どう答えたらいいのか迷った。自分がモデルになるなんて、考えたこともなかったからだ。しかし、その時、田中が後ろから優しく声をかけてくれた。


「いいじゃないか、アオイちゃん。佳子さんはこの街では有名なデザイナーなんだ。君がモデルになったら、きっと素敵なワンピースが出来上がるよ。」


田中の言葉に背中を押されるように、アオイは何とか頷いた。「じゃあ…私でよければ、やってみます。」


佳子は嬉しそうに微笑んで、「ありがとう。きっとあなたにぴったりのワンピースができるわ。あとで私のお店に来てちょうだいね。」とアオイに伝え、店を後にした。


佳子さんが去った後、アオイは少し気が楽になったものの、まだ緊張感が残っていた。「モデルだなんて、私にできるのかな…?」


でも同時に、ワンピースを着ることに心が弾む気持ちもあった。昭和の時代にタイムスリップする前、アオイは古着屋でしか手に入らないようなヴィンテージのワンピースに憧れていた。だが今、この時代では、当時の最新のデザインを直接着ることができる。


「こんな体験ができるなんて…タイムスリップしてきたおかげだな」と、アオイはじわじわと感激の思いを噛みしめた。

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