ナイフ製作、『森王』その1

フルタングのブッシュ・クラフト・ナイフの製作作業の記録、その1。
前記事で触れたフィンランド、Woods Knife社の「プレデター」というブレードを使用した『森王』の製作に着手する。製作、という語には誤解を招かぬよう若干説明を加えておこう。
通常ナイフを購入する場合、完成品を選んで買うことが多い。
一方、欧州、ことに北欧では、完成品以外に「ブレード」というかたちで部品が売られている。それも刃も付けられていない無い「ブランク」というシロモノまである。要は、ユーザが未完成のナイフ部品を手に入れて加工し、自家用にしたり再販したりすることが一般的に行われているのだ。ロードバイク(自転車)がフレームだけで買えたりするのに似ている。こうした背景事情があり、僕がここで書いた「製作」という語は、ブレードを取り寄せ、刃の形状や性質を変え、ハンドルと鞘を独自に作り上げることを指す。今回の場合、銘銘『森王』というコンセプトのもとに、Woods Knife社さんの「プレデター」の作次郎Vr.を2本、仕上げてみよう。


プレデター、ブレードのみの様子

前項で書いたことであるが、重要なので書いておこう。Woods Knife社はフィンランド、カウハバ地方にあるナイフメーカーさん。カウハバというところは、刃物メーカーさんが集まる、日本の美濃・関みたいな場所だろう。僕は訪れたことがない。白状するとハワイもグアムも、ナリタさえ知らない。Woods Knife社さんにも情報があるが、僕が利用したセラーのメッセージにはこうあった。
Blade lenght 90mm/Blade width 25-27mm/Total lenght 205mm/Thicknes 3,25mm/Carbon steel 80CrV2 ということ。
ハガネの硬度は(想像だが高周波焼き入れした)62,5 HRCというモデルも存在するようだが、僕が取り寄せたのは通常焼き入れの59HRCだ。62,5 HRCでは一般のユーザには研げないし、チップが怖くて森では使いたくない。

出荷状態では焼き入れ時の酸化被膜とグラインダ痕が残る(右下)

さて、ブレードの下ごしらえを始める。上の写真のようにブレード状態では焼き入れ時の黒い酸化被膜がリカッソを覆っている。Woods Knife社さんの完成品ではこのままブッシュクラフトナイフとしてリリースしていて、これはこれで錆を抑える働きがあったりで役に立つのだ。ただ僕が気になったのはベベル面の「グラインダ痕」。ここに水滴などが残ったときに深刻な錆を招きかねない。ならばステンレス・スチールにしろよとのツッコミを承知の上で書くが、僕はとにかくこの炭素鋼が好きなのだ。


酸化被膜とグラインダ痕を擦り落したブレード

研磨には耐水#240から始めて#600まで、水ではなく工作油G-6231Fを吹き付けながらひたすら磨いてゆく。


残りの一本も擦り落すぞ

この果てしなく続くかにも思える時間は楽しくて、ハンドルやスペーサの選択、細部の仕上げ、シースのデザインなどを考えながらの作業となる。出来上がって、どなたかの手に渡って、そうだな、春先のまだ寒い日のキャンプ場で「お? そのナイフ何ミタコトナイヨ何々?」なんて会話が始まるのだろうか。
道具を作るといういとなみは、その道具たちが紡ぎだす物語の伏線なのだ。僕がその伏線を回収することはできないが、オーナーさんが「作次郎はやくステンレスブレード作らねえかな? でもあいつ炭素鋼が好きとか言ってるし」そう言ってフェザースティックを削り始め、少しの沈黙ののちに「.…すげぇ切れるし」とか呟いてもらえれば、それでいいのだ。

さて三本のブッシュ・クラフト・ナイフの命運や如何に

作業を始めたことをSNSに書いたら、WoodsKnife社さんの中の人から「いいね」されてしまった。下手な仕事はできない。こえぇぇぇぇ。次回に続きます。


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