『【推しの子】』1話感想……嘘の“アイ”ドルが本物の“愛”を見つけるまでの物語
『鬼滅』3期に『水星』第2クールだけでもお腹いっぱいなのに、そこに『【推しの子】』も満を持して参入するのだから今期アニメの覇権レースは激戦すぎる。
というわけで『【推しの子】』第1話の感想を書く。90分と異例の長尺だったが無駄が1mmも無くアニメーションからストーリー、演出に声優の演技、主題歌まで全てが完璧だった。視聴者全員億支払うべき(©ルビー)。
1.アイが愛を見つけるまでの物語
まず何よりも言いたいのは物語構成が完璧。もはや“映画”なのよ。劇場で先行上映した意義はとても大きかった。鬼滅の1話も先行上映したが、話の途中で切れているので映画作品単体としては評価されづらい部分もあると思う。推しの子の1話先行上映はアイの物語としてちゃんと「一本の映画」になっていた。
1話のストーリー構成をアイを軸にまとめてみると、改めて完璧だと感銘を受けざるを得ない。
並行してゴロー=アクアの物語でもあるのだが、やはり1話のメインはアイである。虚構を演じ続けてきたアイがアクア、ルビーとの触れ合いを通して本物の愛を見つける。そこに至る過程が丁寧に描けており、数話に分けずに90分かけて一気に駆け抜けた意義は大きかった。
まず原作1話に該当する「起」が濃すぎる。通常アニメの1話は原作の1話のみを30分かけてじっくり描く「導入回」になるケースが多いが、推しの子は原作1話をたったの15分でまとめてしまう。衝撃の到来が早すぎる。ただ転生ものが苦手な方も多いと思うので、ゴロー殺害を早めに片づけたのは英断だっただろう。まだ75分も残しており、「転生は序章に過ぎないから! ここからもっと凄いから!」と言わんばかりの時間配分である。
続く「承」が最も長いのだが、原作でも2~7話と長めなので、むしろ割愛が多く駆け足気味に消化している。それでも嘘を貫くアイの個性やアイドルとしてジワジワ人気を獲得する過程は丁寧に描けている。音楽番組での歌唱シーンは凄かった。アイがアイドルとして“嘘”を演じる才能をアニメーションでもしっかり表現できており、動画工房の底力を見た。原作では「本物の嘘つき」と書いて「マジモンのアイドル」とルビを振ってあるのだが、この「本物の嘘つき」という表現がアイの形容としては秀逸すぎる。
そして「転」、1話最大のクライマックス。物語のベクトルが180度変わろうとする大事なターニングポイントで、今度は演出面に驚かされた。特に刺される瞬間のBGM。もっとおどろおどろしい感じの曲を想像していたのだが、全く違った。むしろ爽やかさすら感じさせるピアノの伴奏。これは映像と音楽のギャップを味わうものなのか。否、アイの物語の最後としては、最後に彼女に捧げる曲としてはむしろ相応しいのかもしれない。
2.高橋李依の本気と、伊駒ゆりえというダークホース
そして「転」で特筆すべきは声優の演技である。
もちろん1話の主人公であるアイ役・高橋李依さんの演技力は凄かった。この数分の演技のために医療関係者に取材するとかプロ意識が高すぎる。
しかし個人的にはルビー役・伊駒ゆりえさんも推したい。
ここの泣き演技凄いわ。原作10話で最も心に染みた台詞だが、作者が最も伝えたかったであろう太字の部分を力強く、でも最後は悲しみで弱めになってしまうところにリアルさも感じる。迫真の演技とはこのことを言うのだろう。
ぐしょぐしょに泣いたって……こんなん良い人に決まっているやん。ガチの新人らしいが、ここから更に成長するのかと思うと今から楽しみである。
3.またやりやがったYOASOBI
長くなったから短めにするが、やはりOP主題歌にも触れねばならない。
YOASOBIはアニメの主題歌になると毎回“やりやがる”。本気を出すとかのレベルではなく、もっと上の“やりやがる”という表現を用いたい。水星の魔女の時も思ったが、Ayaseさんは毎回単なるタイアップで終わらせず、作品を深く読み込んだ上で歌詞とメロディーに落とし込んでいる。ラスサビはオタクの合いの手をわざと入れたりして「盛り上がるアイドルソング」になっているのだが、直後のアウトロのコーラスはエヴァっぽい(?)暗さもあり、作品の裏テーマでもある「芸能界の闇」を要素として入れている感がある。これは典型的なアイドルソングでは無いし、推しの子も普通のアイドルアニメではありませんよと言わんばかりの独特な感じを出せている。
4.おわりに
何度も言うが全てが完璧である。ここまで非の打ちどころが無い1話も久々に観た。1話というかまだプロローグだからね。水星の魔女ならまだ決闘すらしていないのよ。2話からが本番ですよ。
とにかく1話をまだ観ていない人は観て! さっき言ったでしょ、こんなところに居ないで今すぐ配信サイトへ急げ!