「配信するならとりあえずコンデンサーマイク買っとけ」って言い出したやつ誰だ 〜録音機材の基礎の基礎〜
拝啓
ストリーマーデビューやらYouTuberデビューやらVtuberデビューやらで機材探しをしている方へ
騙されちゃいけねぇ
あんたがたにゃコンデンサーマイクは使いこなせねぇ
早まるんじゃない
敬具
そもそもコンデンサーマイクって何?
〜音響機材の基本について〜
無責任なまとめサイトにキレ散らかすのはこの辺にいたしまして。
SNSを見ているとどうも勘違いされている方がちょくちょくいらっしゃるようなので申し上げます。
私はUSBでPCに直接繋げられるマイク≠コンデンサーマイクであることを声高に叫びたい。
そしてコンデンサーマイクは音響触ったことない人にはとても使いこなせないものであることを周知したい。
その前に、PCに音を入れる機材について調べていると
・オーディオインターフェイス
・ミキサー
・ポップフィルター
・USBマイク
・ダイナミックマイク
・コンデンサーマイク
・ファンタム電源 といったワードが出てきますね。
とりあえず必要なものを探してる方にとっては
「何のこっちゃい」でしょう。
なぜ安易にコンデンサーマイクを導入しない方が良いかを説明する前に、それぞれ解説してまいります。
・オーディオインターフェイス
PCと音の信号をやりとりする機械のこと。
PCとの接続にはUSBを使うものが多いです。
(もっと高速通信したり多機能だったりする接続方法を使うやつもある)
マイクなどから出てくる音声のアナログ信号をデジタルデータに変換してPCに送ったり、逆にPCから来たデジタルデータをスピーカーとかヘッドホンとかで聞くためのアナログの電気信号に変換したりする機械です。
・ミキサー
複数の音源の音を混ぜたり、音量や音質などを調整したりする機械のこと。
ほんとはオーディオミキサーと言った方が正しい。音響の現場では卓って呼ぶ方が多い気がします。
配信をやってる方がよく入門用に購入される
「YAMAHA AG03」ってのがありますが
あれは「オーディオインターフェイス内蔵型のミキサー」と呼ぶのが1番正しいと思います。
ミキサーには通常各入力ごとに入力ゲイン調整と、個別のボリューム、すべての音量をまとめて上げ下げするマスターボリュームなどがついているので、音量の微調整やミュートなどが手元で全部操作できて便利です。
「使い方わかんねぇよ」という方はこちら。
・ポップフィルター
マイクの前に設置する金魚すくいのポイみたいなやつ。ポップノイズを抑えるフィルター。
パピプペポとかサシスセソとか発音すると、口から鋭く空気が出てきます。それがマイクに当たると「ぼふっ」とでかいノイズが入ります。これをポップノイズと言います。
ポップフィルターは空気の流れを拡散してマイクに風が当たらないようにしてくれます。
どうしても買いたくなければ針金ハンガーを加工してストッキングでも被せてやればとりあえず同じような効果が出ます。見てくれは悪い。
音質劣化を極力少なくするならメタル製、若干音に干渉するもののポップ抑える力は布製の方が強いそうです。
ちなみに「リップノイズ対策に使える」と書いてある記事もありますが、少なくとも私が収録をやってた時はポップガード使ってもばりばりリップノイズ入ってました。
リップノイズ対策の第一は、ごはんや飲み物をとるタイミングに気を使うとか、飲み物のチョイスとか、口内環境を整えるだとか、能動的に自分の身体のコンディションを調整していくことです。これが一番安上がりで効き目がでかい。
生配信中に機材に頼ってノイズを軽減するのには限界がありますから、まずは身体をコントロールするところから始めましょう。
・USBマイク
キャノンケーブル(XLR端子の標準的なマイクケーブル)を使って卓に接続する一般的なマイクと違い、
オーディオインターフェイスを内蔵していて、USBケーブルを使ってPCに直接デジタル信号を出力できるマイクのこと。
音を録る仕組みや音の良し悪しは関係ありません。
コンデンサーマイクであることが多いのは事実ですが、出力方法がUSBであれば全て「USBマイク」なので
コンデンサーマイク≠USBマイク なわけです。
スイッチやコントロール部が全てマイク本体に内蔵されているため、音量などの設定をいじったりミュートしたりといった操作をマイク本体についているスイッチ類orPC側の操作でこなすことになります。オンオフだけの大雑把な操作だけでいいなら楽だと思います。
そのかわり、手元に置いておける外付けのミキサーならば物理ボタンやツマミひとつで簡単にできる微調整なんかも、マイクについてるボタンやらを扱うかPC側の設定から操作してやらないといけません。
これをメリットととるかデメリットととるかはあなた次第です。
・ダイナミックマイク
音を電気信号に変える部分が電磁誘導のしくみになっているもの。
内部に磁石とコイルが仕込まれていて、音の振動でコイルが震えると電磁誘導で電気信号が出てくるって仕組み。声の振動で発電してます。中学校で習うフレミング右手の法則です。
構造的に比較的頑丈です。ちなみに有名なSHUREのSM58は、耐久テストでバスで轢いたりヘリから落としたりグリルで焼いたりショットガンで打ったりしても大丈夫だったそうです(公式サイトで自慢してる)。
真似しちゃだめよ。
・コンデンサーマイク
音を電気信号に変える部分がコンデンサーになっているもの。この部分をダイヤフラムと呼び、ここが大きいものをラージダイヤフラムと呼びます。
皆さんがいわゆる「コンデンサーマイク」として認知しているのは、ほぼ間違いなく「ラージダイヤフラムのコンデンサーマイク」です。
うっっっすい金属膜でできたコンデンサーに電圧をかけておいて、音の力で動いた金属膜の振動を検知して電気信号を取り出します。
金属線をぐるぐる巻いたコイルより、うっっっすい金属膜の方が軽いぶん小さな音の力でも動くので、コンデンサーマイクの方が「繊細な音で録れる」わけです。
これこそがコンデンサーマイクをお勧めしない理由。詳しくは後述。
コンデンサーで出来ている音を拾う部分には電圧をかけておかないと駆動しないので、接続先から「ファンタム電源」と呼ばれる電源を供給しないといけません。
・ファンタム電源
コンデンサーマイクを作動させるために必要な電源のこと。お手持ちのミキサーやオーディオインターフェイスのマイク入力端子のあたり(例外もあるよ)に「+48V」って書いてあるスイッチがあればそれ。
基本的にコンデンサーマイクを使う時のみONにしましょう。
マイクケーブルを通してマイク側に電気を供給するため、ダイナミックマイクでたまに使うXLR↔︎フォン(モノラル2極)のケーブルは使えません。
XLR(通称キャノン、3極)のケーブルが必要です。
ごく稀にファンタム電源を使って駆動する小型のプリアンプ(音量を増幅する機械)があります。それを使う時もONにします。SHUREのSM7dBとか、SE ELECTRONICSのDM1とか。
PAで使うようなモデルだとたまーに電池でこれを補って動かせるやつもあります。
ちなみにきちんとした手順を踏まずにファンタム電源をON/OFFしたり、ケーブル挿したり引っこ抜いたりすると一撃でマイクぶっ壊れるそうなので絶対やっちゃだめよ。
コンデンサーマイクのデメリット
ここからが本題。
まず、音を拾う部分がうっっっっすい金属膜でできている繊細な作りなので湿気と衝撃に弱いです。
この高温多湿な日本で、マイクスタンドにつけっぱなしなんてもってのほか。ラフには使えません。
そして初心者向けのコンデンサーマイクとしてよくおすすめされている「オーディオテクニカ AT2020」のような比較的指向性が広いコンデンサーマイクは、
広範囲の微弱な音が録れすぎます。
指向性が狭いものでも、音を拾う範囲で鳴っているノイズ(部屋鳴りの残響とか)があれば容赦なく拾います。
マイクの正面方向の音ならなんでも拾います。
あなたの声も、キーボードの打鍵音も、窓の外を通る車の音も、部屋で響く残響もなんでも拾います。
録りたくないノイズを抑え込める環境を作れない限り、ノイズだらけの聴き苦しい音しか録れません。
そして、一般的な住環境でこれらのノイズを抑え込むのは相当な困難を伴います。
収録スタジオや練習スタジオに入ったことがある人ならわかると思いますが、吸音がしっかりできている部屋は反響音が全然返ってこないので中にいるとかなり気持ち悪く感じます。本当はあのぐらいしないとまともな音は録れないんです。
マイクを初めて使うような人の部屋が、
都合よく音響的に整っている訳がない。
試しにいつも収録している場所で手を叩いてみてください。ビィーンという音がしたり、音が響いてる、普通な音に聞こえると感じたならば間違いなく部屋鳴りが強すぎます。一般的な住居の普通の部屋は間違いなく部屋鳴りがしています。
部屋の残響は本当によっぽど吸音するものがない限り抑え込めません。部屋の壁一面が本でいっぱいとか、天井も壁も広範囲に吸音材を設置してあるとかじゃないと邪魔な音を抑えることはできないと思ってください。
服がいっぱい吊るしてあるウォークインクローゼットの中のように、聞こえ方に違和感を感じるぐらい残響が跳ね返ってこない環境が、残響の少ない収録に向いているデッドな環境です。
つまり収録に向いている環境というのは、おそらくあなたが想像しているよりよっぽどシビアに環境を整えないと作れないのです。
さもなければ要後処理(録音した音声ファイルをそこそこ高価な有料ソフトに突っ込んでなんとか使える状態にできる程度)の音しか取れないと思ってください。
ちなみに配信ソフトの「ノイズゲート」などの機能は「一定以下の音量のときにミュートする」という仕組みなので、声の後ろで鳴っている雑音や残響音を狙って切ることはできません。
無理やり雑音を切ろうとしてノイズフィルターをかけすぎると音が露骨に不自然でガビガビになります。
収録に向いていない環境で無理やり録った音にノイズフィルターかけまくって音ガビガビにするんだったら、高価で過剰なスペックのマイク買う意味はどこにあるんでしょうか?
「コンデンサーマイクの方がプロっぽくていい」とお思いの方もいらっしゃると思います。気持ちはわかります。
でもプロなら録る環境に合わせてマイクを選びます。
まともじゃない環境であんなマイク使いません。
客席のガヤ録りのために使うことはあるみたいですけど、これは広く客席全体を狙って立てています。この手のコンデンサーマイクはそのぐらい広く音が入るんです。
参照:メテオラの録音Studio
【コスパ最強】初心者向け入門マイク「SM58」と「AT2035」の音質を用途別に比較してみた!【歌ってみた,ゲーム実況,ASMR】
※この方はおそらく十分に収録環境を整えた上で意図的に雑音を鳴らすテストをされています。なんの対策もしていない部屋の場合、もっと露骨に残響音や雑音が乗るものと考えてください。
参照:AV Watch
自宅でいい音で録音したい! マイクの種類や部屋の調音でどう変わる?
そんなわけで、録音環境が整っていない初心者の方こそノイズに強いマイクを使うべきです。
悪いことは申しません。音響的に整っていない部屋でお客様にあなたの声を届けたいなら、
ダイナミックマイクでいいから、ちゃんとした音響メーカーの指向性の狭い(≒録れる範囲が狭い)マイクを使いましょう。
それだけであなたの配信はとっても聴きやすいものになるはずです。
よくわかんないならとりあえずSHUREのSM57とかゼンハイザーのE835とかAKGのD5とか探してください。高くないんで。
部屋の環境を調整できないならば、せめてマイクの周りだけでも吸音材で囲ってやるとか、ノイズ元の方を何かしらの板で邪魔してみるとか小技を駆使して抵抗してください。この辺の小技はググったら出てきますから調べてください。
いっそ思い切って、本来は雑音だらけの外ロケで使うようなピンマイク(ラベリアマイク)も視野に入れるのもいいかもしれません。ご自身に装着しちゃえば体を動かしても口元からの距離が変わらないので安定して音録れますし。
「部屋の雑音も含めてストリーマーだ!」とお思いならばコンデンサーマイクの導入を無理には止めませんけれど。
マイク選びについて詳しくはこちらの記事で
※一応コンデンサーマイクにも指向性が狭いモデルはあります。ただしAT2020より少なくとも数倍とかなり高価なモデルしかありませんし、音が録れる範囲で鳴っている残響やノイズはバチバチに拾います。
※:いくら指向性が狭いからといってガンマイクを使うのはおすすめできません。あれは常にあなたの口元をピンポイントで狙ってマイクを動かしてくれる人がいないと滅茶苦茶な音になります。あなたが人形のように全く動かずしゃべれる特殊な人ならば使えなくはない。
改めて言う。
「とりあえず配信するならコンデンサーマイク買え」なんて言う無責任なやつは誰だ。
おまけ マイクの「指向性」って?
なんか勘違いしている方が多い気がしますが、すべてのマイクには何かしらの指向性があります。よって「指向性マイク」という言葉はありません。
代表的なのはこんなかんじ。
・単一指向性
→マイクの前面を録る。どのぐらいの範囲が録れるかによってカーディオイドとかスーパーカーディオイドとかハイパーカーディオイドとか分類される。
ハイパーが1番狭い範囲。普通のカーディオイドだと案外広い範囲を拾ってる場合も。
実は指向性が強ければ強いほど、マイクの真後ろの音を拾います。そこから反射音やらが入る可能性があるので、マイク背面の吸音対策を忘れないように。
・双指向性
→マイクの正面と背面が録れる。2人で喋る時便利かも。
・無指向性または全指向性
→360度全方向均一に録れる。
(特定の方向に向いていない=全方向を向いている、ということで無指向性と全指向性は同じ意味です)
ピンマイクとかインタビュー用マイクに多い。
詳しく知りたい方はSHUREとかオーディオテクニカのサイトで詳しい図説と記載があります。マイクを中心にどの方向に音が録れるのか、視覚的に分かりやすいのでググってみてくださいね。
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