見出し画像

ハングルの仕組み(4)二重母音(1)

おさらい

基本的な母音である、ㅏㅑㅓㅕㅗㅛㅜㅠの説明が終わり、いよいよ二重母音というやつに入ります。
日本語の基本母音は、「あいうえお」の5個ですが、というか、基本もヘッタクレもなく5個しかないのですが、ハングルでの基本母音には、y子音が混じっていたり、口の形で3系統に分かれて、それぞれ2パターンの発音になるといった形で、日本語とはかなり様子が違います。

日本語には無い発音をする母音字がある一方で、良く見るとハングルには「え」に相当する母音がないことに気づくと思います。

ハングルの基本的な母音の割り当て

日本語は比較的発音数が少ない言語なので、だいたいどの言語を学ぶにしても「アとエの中間音」のような、日本語にはない発音が登場します。ハングルでもㅓ(アとオの中間音)とか、ㅡ(イとウの中間音)のようなやつがあります。
一方で、「日本語ではその発音をするのに、その言語に無い発音」というのに出会うこともあります。
それがハングルにおいて…

ハングルに「エ」はある

ご安心ください。ハングルにも「エ」と発音するやつがあります。
これは二重母音という方に分類されています。

ㅐとㅔ…発音は、どちらもエ
ㅒとㅖ…発音は、どちらもィエ(y子音付き)

この4つ。y子音付き母音があるのは、ハングルでのお約束。
ちなみに、比較的年配の方や、アナウンサーであればㅐとㅔを発音し分けているそうですが、若者年代だと発音は区別されていないそうです。

なぜ二重母音に分類されているか:

ㅐは、ㅏとㅣが合体した文字
ㅔは、ㅓとㅣが合体した文字
ㅒは、ㅑとㅣが合体した文字
ㅖは、ㅕとㅣが合体した文字

という具合に、2つの母音が合体した文字だからです。

でもㅐとㅔの発音は単母音の「エ」です。

時代の流れで発音が変わった?


愛という漢字があります。Loveです。
日本語ではこの漢字を「アイ」と発音します。

中国語の愛は、字形が少し変わって爱という字になっていますが、これも「アイ」と発音します。
中国語を知らなくても誰もが知っている中国語のI love you=我爱你(ウォアイニー)の爱です。

韓国語の愛は、애と書かれ、「エ」と発音されます。
「韓国語の愛はサラン(사랑)じゃないの?」って思った人もいるかもしれませんが、サラン(사랑)は日本語で言えば和語に当たる言葉です。愛の漢字だと「愛娘(まなむすめ)」の「まな」であったり、「愛(いと)しい」といった言い方側の言葉になります。

漢字は元々中国の文字ですから、日本にも漢字を輸入した当時の漢字発音が音読みとして伝わっています。
そして、韓国語も同じように中国の文字の影響を受けています。
ハングルの設計指針のひとつが「漢字1字をハングル1字で書き表せること」があるので、愛(ai)という漢字の発音を、ハングルで애と書き表したことは容易に想像できます。なぜなら、ㅐは、ㅏ(a)とㅣ(i)が合体した文字だからです。

当時は애をアイと発音していたのでしょうが、その後の時代の変化で発音が アイ→エ と変わったのでしょう。
ㅔも、おそらくオイ(口の形はアイで発音する)という発音だったのかもしれませんが、これも今はほぼエに変化しています。

逆を言えば、古い時代の韓国語には、おそらく「エ」に聞こえる母音は無かったのだと思います。そういう意味でハングルには「え」に相当する母音がないとうのも、あながち嘘ではなさそう。

ㅐとㅔの使い分け

ハングルを手っ取り早く覚えようとすると

ハングルでは、『え』をㅔと書きます。
ㅐも『え』と発音します。

なんていう説明に出くわします。

ハングルを早く覚えて、文法や単語に進みたいと焦る気持ちはわかります。ハングルを作った世宗大王が「馬鹿でも10日で理解できる」と豪語した文字ですから、さっさと暗記してしまいたいのもわかります。
でも「どっちも『え』ってことは、どういうときにどっちを使うんだ?」という混乱を残すことになります。
そもそもハングルは韓国語を書くための表音文字なのに、「エ」の発音を示す字が2つ存在する意味がわかりにくいんです。

実は、さきほど言ったように、歴史的に全く発音が違っていた文字であろうことが推定できるので、「今の時代たまたま同じ発音に変わってしまっただけで、本当は違っていた発音」ということがわかります。
だから、同じに聞こえる発音でも、文字にする場合は適切な方で書かないといけない=どちらを書いてもいいということではないのです。

当時の漢字発音で明確にㅐとㅔとして発音し分けられていたものや、活用変化などで、ㅏとㅣあるいはㅓとㅣが合体する条件が整うと、文字がㅐやㅔに変わり、発音も「エ」に変化することがあります。
だから、発音が単母音の「エ」なのに、文字が使い分けられるんです。

そして、ハングルは、文字を見れば発音がわかりますが、発音からは必ずしも正しい文字を起こせない(ハングルのスペルを知らないと正しい字で書けない)ということもわかります。

日本語の「じ/ぢ」「ず/づ」問題

似たような現象は日本語にもあります。
発音が同じで書き分けているやつがありますね。
「じ」と「ぢ」の使い分けみたいなものですね。
現代仮名遣いでは原則「じ」を使います。

歴史的仮名遣いで「ぢ」と書かれていた漢字は、現代仮名遣いですべて「じ」になったので、路地の地も「じ」ですし、痔も「じ」と書きます。(痔は「ぢ」ではありません。)

連濁のような、もともと「ち」という発音しかないものが濁る場合は「ぢ」になります。血だまりの血は「ち」ですが、鼻血の血は「ぢ」と書きます。血そのものは濁った発音をしないので、濁った発音に変わるときだけ「ぢ」になります。

地は単独で「ち」と「じ」の両方の発音を持つので、地を「ぢ」と読むことはありません。地の濁る発音の歴史的仮名遣いは「ぢ」だったのですが、現代仮名遣いで「じ」となりました。

縮む(ちぢむ)、続く(つづく)は例外となっています。

連濁のルールは外来語に適用されません。
だから韓国風お好み焼きは「チジミ」と書きます



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?