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「ペクトラジ改」第6章:追想
剛は60歳を超えたある日、
朝鮮(韓国)部落のおばさん達が、地盤固め作業をしていた時の歌を思い出した。
男は土方作業だが、女性人夫は地盤固めの作業を行った。
数本のロープの先に、大木の塊をつけ、皆で力を合わせ、ロープを引っ張り、大木の塊を落下させて、その衝撃で地盤を固める、という、極めて原始的な地盤改良工法である。
その時に歌われていたのが
「ヨイトマケの唄」だと思いこんでいたが、それは間違っていた事が記憶に蘇ってきた。
「トラジの唄」だったのである。
朝鮮王朝時代、「アリラン」は日本でいうところの民謡に近く、「トラジの唄」は童謡に近い。
そして、少女達の労働歌でもあった。
「トラジ」は桔梗の事で、
朝鮮王朝時代、桔梗の根は
薬膳料理の材料として珍重された。
山には、トラジが自生していて、少女はその根を採取に行くのである。
「トラジの唄」を口ずさみながら。
何故、今になって思い出したかわからないが、ヨドセとの想い出が蘇ったのであろう。
しかし、剛は娘の顔も、本名も思い出せないでいる。
そして、時折、プサンの方向に向かい、「トラジの唄」を
うろ覚えの韓国語で口ずさむ。
「トラジ、トラジ、ペクトラジ、シムシムサンチョネ・ペクトラジ〜」
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ペクトラジ(白い桔梗)は
太古の昔、娘がまだ見ぬ恋人を想い、髪飾りとして使用した、当時の精一杯お洒落な
アクセサリーだったと聞く。
ペクトラジ改 完