山田金一物語:第8章:剛大学へ
剛は高校3年生となった。
早速、高卒か、大学進学か
方針を決めなければならない。
金一は、エリート教育を受けたにもかかわらず、剛に伝えた言葉は
「高卒で十分じゃ。」
しかし、明子はこの言葉に対して猛然と反発した。
「あんたは英才教育を受けたから、公務員になれたんじゃろ。これからは学歴社会ですばい。剛は絶対大学に行かせる。」
問題は教育費である。
明子の行動力は凄まじかった。
失業対策事務所のお茶くみとは別に、唐戸にあるうどん屋を見つけだし、そこでパート勤務を始めたのである。
当時としては、女性が二足の草鞋を履くのは、非常に珍しいことであった。
これで、教育費の目途がたった。
剛の大学進学は決まったが、
あとは行き先である。
剛の学力では国立大学は無理である。
比較的学費の安い私立を探すと、博多に福岡大学があった。
金一は剛の学力では福岡大学も厳しいと踏んでいた。
しかし、剛も肝が座っていた。
試験当日は実力以上の力を発揮して、無事に、福岡大学工学部土木工学科に入学した。
下関から通うには遠すぎるので、安い大学寮に寄宿することとなった。
博多から下関までの距離なら、日曜日には下関に帰ってこれる。
金一は、剛が二十歳になった春休みに、剛を小倉の自動車教習所に通わせ、免許を取らせ、中古の軽を買い与えた。
スバルR2である。
その後、剛が帰省する度に、手弁当をもって、家族3人で
ドライブする。
金一にとって、そのひと時が
とてつもなく幸せな時間であった。
続く