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山田金一物語:第4章:土方生活から準職員へ


剛は8歳の頃、韓国部落の少女と遊んでいた。

その時、近くの桜幼稚園から叫び声が聞こえた。

「誰か助けて下さい!。子どもが溜池に落ちて溺れました!」

金一は土方生活をしていたとはいえ、一張羅の背広を持っていた。
丁度その日は土方も休みで、背広を着て事務所の玄関を出た時だった。

金一はその声を聞きつけた瞬間、桜幼稚園に向かい全速力でダッシュした。

金一は桜幼稚園のフェンスを飛び越え、溜池に着くなり、眼鏡を投げ捨て、背広のまま、溜池に飛び込んだ。

溜池の水は濁っているため、視界がきかない。

金一は潜水して、溜池の底を手探りでさぐり、子どもを掴み取るなり池の外に引き上げ
人工呼吸を施した。
女の子は口から泥水を吐き出し蘇生した。

病院に搬送されたが、ペニシリンの注射処置だけですんだ。

後日、警察署から、人命救助の謝礼として、感謝状が贈られた。

泥水に浸かった背広は、もう、使い物にならない。

金一は名誉の感謝状で満足したが、明子は不満だった。

「こげな紙切れ1枚もろうてもしゃんなか。せめて背広代の金一封が欲しかったですばい。」

明子の言葉は、生活の苦しい山田家にあっては当然のことである。


しかし、その事件は思わぬ方向に向かった。

当然、事務所長の耳に、その話題が入るのだが、所長は感激して、この男は何とかならないものかと思い立った。

そして、所長は金一を呼び、何故水泳や人口呼吸法まで
会得しているのか理由を聞いてみた。

そこで、金一の実家は大地主で金一はそこで英才教育を受けた事を説明した。

事務所長は、驚き、金一の実力を試すため、書道道具と算盤と事務所の帳簿を、金一に差し出した。

金一は、所長の目の前で、書道と算盤の腕前を披露した。

これには所長は驚き、

「これ程の実力を持つ男を、土方にしておくのは惜しい。」


所長の計らいで、数日後
「下関市役所準職員失業対策事務所勤務」の辞令が金一に降りたののである。

正に「芸は身を助く」




          続く