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金魚鉢┃シロクマ文芸部



金魚鉢なんて買えるはずもない、戦後間もない少年時代、人間が生きて行くだけで精いっぱいだ。

犬や猫を飼えるのも、一部の金持ちだけだ。

おいらだって、白いお米のご飯は食べたことはない。
アワやヒエが混ざっている。

ボロ屋に行くと、何でも揃っている。
ボロをタダで回収して、値段をつけて売る。

ボロ屋、ボロ儲けだ。

とおちゃんは、真空管式ラジオや手回し式蓄音機を、みんなボロ屋で格安で買ってよろこんでいた。


おいらはボロ屋で、金魚鉢が10円で売っているのを見つけた。

とおちゃんにおねだりすると、買ってくれた。

しかし、金魚は高いから買えないと言われた。

「散歩よ、近くの池に、オタマジャクシがいるから、それをとってきて飼いなさい。」

さっそく、オタマジャクシを10匹位すくってきて、金魚鉢にいれた。

しかし、エサがわからない。

しかたないので、アワを与えた。

オタマジャクシはアワを食べなかった。

そのうち、金魚鉢の中で、オタマジャクシの共食いが始まった。

最後に、丸々としたオタマジャクシが
一匹残った。

数日後、そのオタマジャクシも、やせ細って死んでしまった。


あとに残った金魚鉢は、かあちゃんの
花瓶になり、失業対策事務所の片隅で
生け花がかざられた。




          おしまい





小牧幸助。さん
宜しくお願いいたします。🙏