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ゲームマスターでも破れないルール

 いつぞやのカクテルパーティーの人から連絡がきた。また参加しないかとのことである。

 実のところ、勧誘自体はほぼ毎週のように何度もされていて、全て断ってきていた。興味もなければ費用もかかるからである。しかし、何度断っても勧誘してくるので、今回ついに「おそらく今後参加することはないだろうから声掛けは不要」という旨のメッセージを返した。それ以降、一切返事がない。どころか、そのメッセージに既読すらつかない。イベントの参加費を徴収するのが目的で、その線がなくなったから無視し始めたということだろう。しかし、マルチ商法の案内人もそうだが、既読をつけずに内容を見て、それでもって対応を決めているように見える。どうやって既読をつけずにメッセージを見ているのだろうか。その方法は気になる。

 またTRPGの話である。もうすぐ私がゲームマスター(以下GM)の卓が始まる予定で、今回かなり力を入れているのもあり、楽しみと不安が入り混じった不思議な感覚に襲われている。多少、どころか盛大にマスタリングを失敗したところで、怒られるなどということはありえないのだが、それはそれとして楽しく円滑な進行をしたいものである。

 今回に限らないが、かねてからGMをやる際、私がルーティンとしてやっていることがある。ルールブックに記載されているゴールデンルールの欄を読むことである。ゲームによっては黄金律とか、絶対則と書かれているが、名称は違えど言っていることは大体同じである。「この(ゴールデン)ルールは本書及び以降に発表される本ゲームのあらゆるルールに優越する」という但し書きから始まり、およそ全てのルールブックの冒頭に書かれているので、ゲーム毎のルールというよりは、TRPGという遊びについてのルールと言えるかもしれない。

 ではこのゴールデンルールには何が書かれているか。まとめてしまえば「GMは絶対」ということが書かれている。それ以外にも遊び方の心得だとか、プレイヤー同士のやり取りの指南だとかが含まれることもあるが、基本的にこのGM最優先のルールは必ず記載されている。GMはルールを変更したり、適用しないことを選んでも良い、であったり、ダイスロールにおいて任意の数字を宣言してもよく、またダイスロールそのものを省略してもよいだったり、言うなればルールを無視することを許可する文言が書かれている。

 これは当然のことで、如何にルールブックのルールが精密であろうとも、必ずルールブックに記載されていない事態はゲーム中に発生し得る。王様の魔王討伐依頼にはいと言わず、外に飛び出し酒場に駆け込んで酒をかっくらうことだってない訳ではない。そういった、全く想定されていない状況に出くわした場合、その場その場でのGMの判断で状況を処理しなければならない。ルールブックでは対処できないことに対処する権限をGMは持たねばならず、故に「GMの裁定はルールに勝る」のだ。

 そういったことが記されているゴールデンルールの項目であるが、中でも私が好きなのはFIARから発行されている『メタリックガーディアン』というゲームの記述である。ロボット物の世界観を遊べるゲームで、初期作成の段階から「プレイヤーの願いを叶える」という効果の能力があったり、極まると「新世界を創造して自分が神になる」というスキルがあったりとめちゃくちゃなことができるゲームなのだが、その内容については今回関係ないので省く。

 このゲームのゴールデンルールには、前述したことに加え、その権限をどう行使するべきかというGMの心構えも余白に記されている。ざっくり言うと「友人としての節度を守れ、参加者全員(GMも含む)が楽しいと思える裁定を心掛けろ」と書かれている。それもそれで大事なことだが、この余白にはもう一つ書かれていることがある。プレイヤー同士がルールで衝突した場合の対処についてである。

 この衝突する事態について、このルールブックではこういった事態を解決する為にGMの権限が存在するとしている。この時GMがするべきことは、どちらが正しいかを決めることではなく、速やかに事態を収束させ、ゲームを再開することであると書かれているのだ。正しいかを決めようとすれば、場合によっては衝突はいつまで経っても終わらず、ゲームをプレイするという本来の目的が失われてしまう。それを避ける為に「この場ではこうする」と一時的であっても裁定を下す強権を持った人物が必要であり、その裁定が適用できるだけの取り決めとしてゴールデンルールが存在するというのである。

 そうなると、GMとして恐ろしいのは、もしその場で下した裁定がルール上間違っていないだろうかということである。その心配に対しても、先のルールブックは回答している。

「大丈夫、あなたの判断は無条件に常に正しいのである」
「このルールを破ることは誰にもできず、GMの権限は常にあらゆるルールに優越する」
「たとえそのテーブルに本書のデザイナーが参加していたとしても、GMが正しいのである」

 ある意味でルールを破ることが認められているGMでも破ることができない唯一のルールとして「GMの裁定はいついかなる時も常に無条件に正しい」のである。もちろんGMのやりたい放題を認める訳ではないが、失敗を恐れる必要もない。GMの考え、判断を、このルールブックは大丈夫だと親身に肯定してくる文章がある点で、私はこの記述を好んでいる。

 このルールブックを開き、この文章を見るようにしてから私はGMをするようにしている。ただ自分を肯定する為の作業にすぎないのだが、これを毎回見ることで、失敗したって問題ない、自分は正しいのだという気持ちを持つようにしているのだ。だからといって、プレイ中に不安になったりすることはあるのだが、それはそれ、楽しいゲームができれば良しということである。

 

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