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説明という作業の説明書

 先日の退職に際してプレゼントをするという件で、上司から確認が入り、どうしたものかと悩んでいる。欲しいものなどいくらでもあるが、上司からもらうとなると話が変わる。昨日友人と偶然都会で会ったので、飯を食いがてら良さげなものがないかと聞いたところ、名刺入れや小銭入れ、他にはお前はコーヒーをよく飲むからコーヒーメーカーとかどうかと提案された。それら三つを、友人に相談したら提案されたと前置きして話したところ「で、結局何が欲しい?」と結論をせかされた。そも、退職祝いの品物は、退職する側が指定するものだっただろうか。とはいえ、聞く限り先の三つに妙な顔をしなかったので、これらの中から希望を出すのが変なものを求める奴だと思われないという意味では丸いかもしれない。

 しかし、プレゼントの中身を指定するなど、小学生時分に親へ希望を伝える時以来のもので、10年はやっていない。この年になってそういう事態になるとは思ってもみなかった。いっそ小学生のように、ゲームソフトなど求めたらどうなるんだろうか。やりはしないが、どんな反応をするのか気になりはする。
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 退職に伴い、引き継ぎ資料を作成し、今日それが同僚に配布され、私が受け持っていた業務を他のメンバーでやる流れになった。私は聞かれれば答えるスタンスで、何も言わずにいて、誰に言われた訳でもなくそのスタンスをとっていた為これでいいのかと内心思っていたのだが、教育係も参加していた以上、私が関わると盛大な事故が見えていたので控えた。

 教育係は私が作成した引き継ぎ資料がメールで配布されるやいなや、内容が読めない、見方がわからないとぶつぶつ言いつつ、どうやら自分好みに作り直していたらしい。その過程で、資料のミスを見つけては上司に確認をしていくものだから、居心地が悪いことこの上ない。隣に作成者がいるのに、教育係→上司→私とボールを投げてくるので、よほど私が気に食わないと見える。私も直接教育係にボールを投げ返さずに上司に投げているのでおあいこではあるが。本物のキャッチボールであれば顔面に可能な限りの速度で叩き込むが、向こうにダメージがないなら接触は避けるが吉である。

 事前に引き継ぎ資料は雛形を作った際に、教育係を除く上司含むメンバー全員に見せ、レイアウト、表記の意味について確認していた。そのおかげか、他の人たちは内容について大きく不明点はなかったらしく、それは上々と言ったところである。教育係に事前確認をしなかったのはもちろん嫌がらせであり、聞いたところで話が通じないからとやらなかったのだが、まさかこういった形で返ってくるとは思わなかった。

 しかし、他のメンバーが私の資料を見つつ作業をしているのを、仕事をしているフリをしつつネットサーフィンしながら耳を立てて聞いていた限りで思うのは、わかりやすさというのは人それぞれということである。先の引き継ぎ資料は私が作ったものであるので、必然私が一番わかりやすい表記の仕方、レイアウトで記載されている。しかし、前述の通り、教育係は魔改造を施していたし、他の人も見せた際に不明点をいくつか聞いてきた。教育係は除外するにしても、当然のことではあるが、私がわかるからといって、全員がわかる訳ではないのだ。

 実際に作業中、これはどうすればいいんだという話が上がった時、私としてはどうすればいいか知っているし、それ以前に資料に対応の方法をちゃんと書いてあるから見ればいいのにと思うのだが、見たとしてもその箇所が求めている内容であると伝わらないのである。作業マニュアルであったり、仕事を教えるという行為が、如何に難しいかを実感する。

 これは仕事に限らず、ボードゲームのルールなどにも通じるところだろう。先日丁度同人ゲーム即売会であるゲームマーケットが開催されていたが、こういったところで発売されるボードゲームのルールといった要素は、記述の仕方、説明の仕方、レイアウトといった点でどれだけ試行錯誤を繰り返しているのだろうか。直接その場で作成者が説明をする訳でもなく、しかしルールはしっかりと伝わるように説明書を作成しなければならない。テストプレイによるルールの洗練も重要だが、ルールブックの記載内容も相当な注意が払われているのではないかと思う。

 しかし、逆説的に考えれば、ボードゲームのルールブックというのは、物事を説明するという作業を行うに際して、優れた教本となりえるのではないだろうか。ルールブックとはゲームを正しく円滑に進めるための手順書であり、仕事のマニュアルも手順書である。本質的にはかなり似通ったものであり、違いはやっていて楽しいかつまらないかでしかない。

 説明という行為はどうしても苦手で、特に社会人になってからというもの大人のコミュニケーションについていくことができず、苦労してきた身であるが、そう考えると参考になりうるものはゲームコミュニティに属する私にとって思いのほか身近にあったということになる。基本的にルールを把握したり、不明点があった時に確認する為に見るものであるが、それ故にそれ以外の考えで見ることはなかった。もちろん内容の違いは大きいので、そっくりそのままという訳にはいかないが、行き着くところが内容を理解してもらうという共通の位置である以上、つながるものはあるように思える。ボードゲームのルールブックでも、説明を行う教本として開いてみるのもいいかもしれない。

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