彼女のために頭をかかえる
ムリヤリにでもカオリを手に入れようとしていた男が落下した。ミハルという名前だった。
幸いなことにミハルが叫び声をあげなかったからか五階建てのビルから落ちてしまった彼を誰も気にせずに歩きつづけている。
雨が降ってきた。
ミハルの後頭部からあふれている血が雨と一緒に近くの排水溝へ流れていく。彼の見開かれた目玉の上で休憩をしていた虫がどこかに飛ぶ。
ぽっかりと開けたミハルの口の中に雨粒が入る。そのままにしておけば新しく小さすぎる池ができてしまう。
カオリもそのことに気づいたのか笑っていた。
おそらくその池はこれまでのどんなものより水質が良くて動物が狙ってくる。いずれはミハル本体も食べられてしまい全てなくなる。
遺体になったミハルの運命は機械で焼かれるか、数多の生きものたちに食べられるかのどちらか。
ほとんど人の来ないここでなら十中八九、死んだミハルが見つかることはない。カオリが良心の呵責に耐えられれば。
「どうしよう。ノドカに嫌われちゃうかも」
ビルの屋上からミハルを見下ろしていたカオリは頭を抱えていた。
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