恵野 花

めぐみの はな。 「色飴 遥火」や「赤衣 桃」とも呼ばれて います。色々とよろしくお願…

恵野 花

めぐみの はな。 「色飴 遥火」や「赤衣 桃」とも呼ばれて います。色々とよろしくお願いします。 短編小説やショートショートを主に公開。

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もっとも美しい美女

「美女にして」 「はあ」  女の手短な言葉に店員はため息をついてしまう。 「聞こえなかった? 美女にしてとわたしは言ったのよ。顔の横についているのは耳じゃないの?」  女はふんぞり返って座りながら苛立たしげに顔をゆがめている。 「ええ。ええ。聞こえてますよ。ですけどその美女にも色々と種類があると思いまして。可愛い系やら綺麗系やらねえ」 「つかえないわね、綺麗系よ。顔を見て分からないの? この美しい顔。この顔を可愛くできるわけがないじゃない」 「それもそうですね。

    • ワンナイトホラー 13

      「自分が人間として終わっていると信じこみ脳味噌を働かせない連中を職業柄、山のように見てきた」  回転椅子に座る中村さんの主張が不明なので首を傾げてしまった。一介の大学生にも分かるレベルで話してくれるので、僕が人間として欠陥があるから内容を把握できないだけか。 「生物としての欠点は自覚しているつもりです」 「いつぞやの美人を連れてきた時から了承済みだ」  そういえば最近は碇谷さんと会えてない。不思議サークルにも顔を出してなさそうだし、元気にしてたら良いんだけど。 「つまり僕を

      • ワンナイトホラー 12

        「無理だったらやってあげましょうか」  岩永に返事をする前に終わった。以前に中村さんから聞かされていた人の首の落としかたについてのレクチャーが役に立つか微妙だったが……少女の首が転がる。  血管はないが液体のような物質は巡っていたようで少女の首の切断面から黒っぽいものがあふれて、彼女が持つトランプの束が汚れてしまった。 「意外と簡単に切れましたね」 「切れ味も鋭いが肉体が異常に脆かったからな」  穴の中で生きるための進化の結果、殺されやすくなっているんだから皮肉にもほどがあ

        • ワンナイトホラー 11

           数日はかかると踏んでいたのだがこちらとは違い食事の回数が多いのか昨日と同じように突然。 「トオルさんの言っていたとおり穴としか表現できませんね」  丁度ベッドの上に出現した穴に岩永がトランプの一枚を投げる。音はしなかったが一瞬でひしゃげてしまう。  重力の加減はその時々によって違い同じ形でねじ曲がるトランプはなかった。 「人見知りだったりするんですか、例の女の子」 「岩永が未知のものを入れまくるから警戒しているんじゃないか」 「トオルさんが手加減してくれないからストレスを

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        もっとも美しい美女

        マガジン

        • ワンナイトホラー
          13本
        • こどくな患者たち
          40本
        • 恋愛系
          15本
        • ホラーだと思う
          15本
        • 分類不明っぽいもの
          56本
        • ミステリーの皮をかぶったっぽいもの
          4本

        記事

          ワンナイトホラー 10

          「イタズラに関しては怒ってないんですか」  昨日、電話を切ったことを気にしてかテーブルの向かいに座る岩永がパイプ椅子を揺らす。  いつぞやのような演技の可能性も。けど岩永から言いだしたんだし協力するための理由がほしかったのかもしれない。 「罪滅ぼしに食料集めを手伝ってくれるとか」 「人間じゃない存在が相手とはいえ食料問題を解決するのは正しい行動ですから」 「ちなみに肉であればなんでも良いようだ。昨日は魚肉ソーセージで満足してくれた」 「問題はその少女たちが魚肉ソーセージなど

          ワンナイトホラー 10

          ワンナイトホラー 9

          「実はその人が嫌いだったり」 「んーん。チョッキンしたかったけどできなかったからマゲタだけ」  僕に嘘を言ってなければ少女の行動原理は単純な好奇心。幼そうな彼女が答えられるか微妙だが種族名を聞いてみた。 「カジンだって。でね、ワタシは」  名前はあるらしいが発音が聞きとりづらい、空耳英語に近いと思うが。 「セン」  ぱあっと少女の顔つきが明るくなる。飛びはねて近所の子供みたいに全身で喜びを表現していた。 「名前を呼んだのお兄ちゃんが最初。でもバウアーおじさんもワタシと友達に

          ワンナイトホラー 9

          ワンナイトホラー 8

          「近くにビルなどがなかったとは摩訶不思議」 「一緒にいた碇谷さんは気がついたら人間がコンクリートと衝突していたという感じだったはず」 「トオルさんはショッキングな光景を思い出したくない。それとも秘密にしないといけないものを見てしまったんですか」  抜け目がないというか、可愛げがないというか。 「穴」  平仮名を教えてもらっている小学生のような声音で岩永がその二文字を反復する。  これ以上の説明を求められても穴としか言いようがない。近くに建物がないのにどこから降ってきたのか確

          ワンナイトホラー 8

          ワンナイトホラー 7

           碇谷さんを知り合いの医者に診てもらった結果は貧血だった。清潔なベッドに彼女を寝かせたままで保健室みたいな部屋を彼と一緒に出ると。 「とうとう欲望をぶつけかたを覚えたのか」  白衣が似合う中村さんが僕に経緯を求めてきた。隠す理由もないので分かっている情報を提供する。 「知的好奇心が旺盛というべきかナイフを私利私欲に使おうとしないとはお前らしい」 「利用をするためにもナイフの効果を把握しておくのが最優先ではないかと。結果的にトラブルも減らせるでしょうし」 「すでに起こっている

          ワンナイトホラー 7

          ワンナイトホラー 6

          「そもそもの話だけどさ、ナイフはどこで」  腕組みした状態で碇谷さんが僕を見下ろす。軽蔑するようなポーズとは違い彼女の目は揺れていた。 「サイフォンを買った時についでにもらいました」  売人が僕にナイフを押しつけたかった素振りなのは伝えたところでだろう。 「おまけのほうが便利な代物の場合もあるとは」 「人殺しの言葉を素直に信じてくれるんだな」  恋人同士の信頼関係によるものだと勘違いしてか碇谷さんの表情が嬉しそうに歪む。岩永はもう聞きたいことがなくなったらしく読書を再開して

          ワンナイトホラー 6

          ワンナイトホラー 5

          「ところで岩永はどうして僕を名前で」 「シンプルに嫌がらせのつもりでした」 「殺したいぐらいには嫌われてなくて安心したよ」  コーヒーを飲んで、おかわりしようと立ち上がると岩永がテーブルを指先で叩く。さりげなくピンクのマグカップを僕のほうに寄せていた。 「おおせのままに」  わしづかみにしたピンクのマグカップに同じ量の角砂糖とミルクを入れたコーヒーをつくり岩永の手の届く範囲に置いた。  クライマックスらしく岩永のページをめくる速度が上がっていく。一区切りなのか栞を挟まずに彼

          ワンナイトホラー 5

          ワンナイトホラー 4

          「どうせ同じところに行くんだからバラバラに行動する必要もないんじゃないか」 「そのサークル名、どうにかなりませんかね」 「岩永はセンスが悪いと思っているのか。シンプルで分かりやすいだろう、不思議サークル」 「個人的にはホラーサークルのほうが好みです」  岩永をどうこう言えるネーミングセンスはないがどちらも似たり寄ったりだよな。 「サークル名は碇谷さんに相談をしてもらうとして授業は出なくて」 「ランゾクのとても良いところはテストで高得点をとれば誰でも卒業できることでしょう」

          ワンナイトホラー 4

          ワンナイトホラー 3

           人間の血液さえ撥水できることで評判のリュックサックに教科書やノートをつめて背負い、部屋の扉に鍵をかけて寄宿舎から出る。  ぎらつく太陽のおかげか、辺りを包みこんでいた霧もなくなっていた。 「おまたせしました」  ランゾク大学の近くにあるハンバーガー専門店でチキンバーガーを注文。毎朝のルーティンになっていてか女性の店員が短時間で持ってきてくれた。  フライドチキンとレタスにタルタルソースをかけられたシンプルなものだが、大学生の懐にやさしく絶品ですぐ食べられる。オリジナルのバ

          ワンナイトホラー 3

          ワンナイトホラー 2

          「さようなら。お姉さん」  ホテルを出て白い息を吐きながら霧に包まれた街を歩き……なんとか見つけた自動販売機の横にあるベンチに座る。  うつらうつらと頭が勝手に上下に揺れ、お姉さんとの性交が思い出されていく。今まで体験してきた女性の中で一番相性が良かったような。 「なにしているの?」  顔を上げると今も頭の中で丸裸にされて、あえぎ声を聞かせてくれた女と同一人物が自動販売機の前に立っていた。身じろぎもせず、こちらがなんにも話さないからかお姉さんが不安そうな顔をする。 「昨日

          ワンナイトホラー 2

          ワンナイトホラー 1

          あらすじ サイフォンを買った時におまけでもらったナイフで殺した人間は存在が消えてしまうらしい。そう説明した売人の言葉が本当か確かめるために真弓トオルは女性を殺した。 実験は成功したが、ナイフにはデメリットがあり。 「人間を殺したいと思ったことはないかもしれないが自分の嫌いなやつが苦しんでくれれば気分がいいのに、ぐらいなら考える時はあるはず」  僕の隣に座る青のXラインのドレスの女性が首を傾げる。カウンター越しに立つ、ステレオタイプなバーテンダーの用意した薄い琥珀色のウイスキ

          ワンナイトホラー 1

          こどくな患者たち 蛇足

          「ハチが記憶を失いやすい原因は、脳味噌の容量が他のアンドロイドたちよりも大きいから思い出すのにエネルギーを」  いつぞやのシイとの会話の断片かな、これは。 「記憶力が優れている代償に、わたしは思い出すのが苦手になっているんですね」  いきなり場面が切り替わりシイがわたしの眼球を取り出していた。 「わたしはなにをされているんですか」  記憶を思い出しているからか、わたしの意識とは無関係に唇が勝手に動く。 「健康診断されているだけさ、安心しなさい」 「その脳味噌みたいな部品はど

          こどくな患者たち 蛇足

          こどくな患者たち 第39話

           館であった事件の話を聞き終えて、ベッドの傍らにあるパイプ椅子に座る博士と顔が似ているお医者さんは目を輝かせた。 「面白い話だったよ、ヤガミちゃん。その館がどの人間の中にも存在するものだとしたら睡眠中はそこで脳や身体や精神を休ませているという仮説も」  思春期の女の子には興味のない話題だと気づいてくれたようでお医者さんが表情を緩める。 「難しい話はさておき、事件が起こる前の彼女たちとの思い出も聞かせてくれないか」 「人間になった影響なのか、記憶が曖昧で思い出せません。なのに

          こどくな患者たち 第39話