扇を閉じる
最近、扇と暮らしている。
今年から習いはじめた能の謡と仕舞で扇を使うので、マイ扇を買ったのだけれど、とにかく慣れない。
「仕舞入門講座」(檜書店)には、自分の手の延長のように扱えるよう、扇になじむことが大切で、暇を見つけては「扇と遊ぶ」ことを心がけるとよい、と書いてある。
昔上司がお子さんのことを、スマホが手から生えているようだと評していたけれど、私も扇が手から生えるくらいに、なじみたい。
仕舞で使う扇は、とても大きい。
一尺一寸(33.5センチ)、あるらしい。
家にある扇子と比べても、大人と子供みたいだ。
そして、かたい。
スムーズに開いたり閉じたりするだけでも一苦労。能を観に行くと、さらさらとなめらかに開いているから、もっと軽々と開けるものかと思っていた。
扇はかたいだけに、ぴたり、と閉じる。
最初はその勢いにびっくりしていたけれど、毎日触れていると、閉じるときの、ぱん、という音が、1日の締めくくりの音、という感じがして、心地よくなってきた。
子どもの頃は終業のチャイムがあって、有線からは、帰宅を促す童謡が流れていた。
締めの音があると、心に区切りができて、よい気がする。
今日も扇を閉じて、1日を締めよう。