コウモリの影
夕方、あっという間に日が暮れるようになった。
時々びっくりするくらい暑くなる日もあるけれど、やっぱり秋なんだなあと思う。
夏の夜、汗でじっとりしながら、まだ明るさの残る川沿いを帰るとき、空にはコウモリがひらひらしていた。
鳥のような蝶々のような、不思議な存在。
ああ今日もなんとか一日終わったと、ほっとする瞬間。
日の短くなった今は、真っ暗の川沿いを、月を眺めながら帰る。あのコウモリたちは、どこに行ったんだろう。
秋は、寂しくて、もの悲しい。
すぐに暗くなってしまうからだろうか。
でも、今読んでいる本によれば、万葉集には、秋を悲しとする心情を詠んだ歌はなかったのだそう。
その後の時代に、漢詩の流行を媒介として詠まれるようになったらしい。
日本人の古来の発想かと思っていたから、ちょっと意外。
万葉集の時代の人々は、秋をどんなふうに見ていたんだろう。
年号が令和になったころ、ちょっとした万葉集ブームだったから、読んでみたいと思いつつ、結局そのままになってしまった。
秋の夜長に、学びたいことはたくさんある。
かなしみをひとひら削り夕空へ吹けばコウモリのかたちに消えて
(2024.10NHK短歌佳作・大森静佳選)