なにかに、なりたくて

若い頃、私はずっと、なにかになりたかった。
なりたかったというよりは、なにかにならねばならない、なにかにならねば生きていけない、といった、切迫した気持ちがあった。

あの強迫観念は、なんだったのだろう。
高校生の頃、世の中が就職氷河期で、特に女子学生の就職が厳しいと言われていたことも、影響していたのかもしれない。

なにか手に職をもたなければ生きていけない、と、一途に思い詰めていた。
文学や歴史が好きだったのに、それどころではない、生き抜くには、実学実学!と自分に言い聞かせた。
不安が私の原動力だった。

今、職に就いて、住むところがあって(借家だけど)、食べるものや着るものにも、とりあえず困ってはいない。
それ以下ではないけど、それ以上でもない。

あの強迫観念のおかげで、今の自分がある、と感謝することもできると思う。
これまでの生き方を、後悔しているわけでもない。何度やり直しても、同じだろうと思う。

でも、時々不思議になる。
私は、何に追われていたのだろう。
私をあんなにも駆り立てたものは、一体なんだったのか。
私は、何を手に入れたかったのだろうか。

あんなにもなにかになりたかったのに  しあわせじゃないふしぎなくらい

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