白いぼうしと、夏みかん
「よかったね」「よかったよ」
子どもの頃、姉妹でよく言っていたセリフ。
良いことがあると、私が「よかったね」と言い、姉が「よかったよ」と返す。
それをしばらく繰り返す、謎の儀式。
あのセリフってどこから来たんだろう、と思い返すと、学校で習った、あまんきみこ「白いぼうし」だった。
タクシーの運転手さんが、田舎から送られてきた夏みかんを、車に乗せて走る。
車内には、夏みかんの香りが満ちている。
道端に白いぼうしが落ちていたので、車にひかれないよう、ぼうしを手に取る。
と、中から、白いちょうちょが飛び出してくる。
白いぼうしは、即席の虫取りあみ兼、虫かごだったのだ。
運転手さんは、ぼうしの主がかわいそうになり、夏みかんを代わりに置いて、白いぼうしをかぶせる。
車内に戻ると、白い服の見知らぬ女の子が座っていて…というお話。
物語の最後に、運転手さんは、たくさんの白いちょうちょが舞う姿を見る。
そこで聞こえてくるのが、あの会話。
「よかったね」「よかったよ」
さして意味のある言葉ではないけれど、互いに言い合っていると、心があたたかくなる。
俵万智先生の歌
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
に通じるものがある気がする。
今でも時々、言いたくなる。
よかったね、と言ったら、誰かに、よかったよ、と答えてほしい。