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仕事を辞めたきっかけについて

学生時代、『就職』ということについて深く考えていませんでした。

近所の噂話で
〇〇君はどこどこ会社に決まっただの
△△君はナントカ電力に決まっただの
内定は貰ったけど単位が足りないから卒業できず『泣いてい』る、とか。
(あ、ここ。ダジャレです)

そういう話を聞き流していました。

いや、でも仕事は決めないとな?と慌てて会社の面接を受け
卒業ギリギリに内定をもらいました。


本社が東京にあり、支店が東北と関東に数か所ある会社。
同期はみんな、目がキラキラしていて夢と希望に満ちていました。
本社で数か月の研修を受け、地元である希望の盛岡支店に配属。

盛岡支店では
朝6時前に会社に着き、朝礼では社則と目標を大絶叫。昼休みは10分程度。素早くご飯を食べ、業務再開。13時には自席で直立し

「午後の勤務を開始する!!」
「午後の勤務、開始!!!」

と絶叫号令。17時に10分ほどの小休止。20時が定時。
と言っても『先輩が退社していないので自主的に居残り』、22時~に退社。土日祝は『先輩が出社しているので自主的に出社』で、『土日祝だからゆるやかに』ということで8時~21時までの勤務。

実は、週7勤務って休みがないんですね。
カレンダーを指で追うとわかります。

電話帳片手に電話をかけ、約束を取り次ぎ(取り次いだことにして)お客様の所に訪問し、商品の説明。飛込営業をするも数分で追い返されるのがほとんどで、客先で暴言を浴びせられ、塩を撒かれたり、バケツで水を浴びせられたり。刃物を向けられた事はあったかな。あったかも。

営業車はなく、自分の車で移動。当然、ガス代も自腹。
契約取れるまで帰って来るな!の怒号・罵声。そんな簡単に契約は取れる訳もなく、翌日朝礼で「自分の誠実さが足りず、結果を出せず申し訳ございません!!」等と大絶叫。

一日に数回、本社・社長からの直筆FAXの檄文。絶叫の電話。
社員を罵倒し、侮辱し感情を逆撫でし、「悔しいなら契約を取るように」と締める文章。同期や先輩がバンバン辞めていきました。

コンプライアンス』や『ブラック企業』って言葉があった時代なのに。
時計が昭和のどこかで止まった会社でした。

社会人ってこんなツライんだ。
家に帰って疲れて寝るだけの日々。

周りのサラリーマンもそうなんだろう。そう、信じ込んでました。


ある日、久慈市に営業に行った時。
盛岡~久慈間は当時で、車で2時間半くらい。今は2時間?

余談ですが営業の際には
「〇時〇分、◇◇到着。突撃します!」みたいな
まるで、軍隊みたいな報告をして
支店長に「よし!健闘を祈る!」みたいな
これまた、軍隊みたいな返事をもらう必要があります。

直帰の際にも「〇時〇分、現在地、××市近郊のミニストップで待機中!」などと報告して
「よし!次の訪問先が終わったら直帰を許可する!」
と、返事をもらう必要があります。

改めて書くとホント、軍隊っぽいぞ。

営業のガス代は自腹だし、せめて営業先で美味しいものを食べてもバチは当たらないはず!と決めていました。
そこで選んだのは、久慈琥珀博物館内にあったレストラン。

数名待ちの状態なので、椅子に座って待っていると声をかけられました。

「お客様、体調がすぐれないようですが?」

いきなり何を言い出すのだろう。
これから美味しいものを食べるというのに。
その時はそう思いました。聞くに堪えない言葉を喚き散らし、『失礼な』ウェイターを追い払った記憶もかすかにあります。

席に案内され、メニューを開きます。
が、何を注文するべきか。
メニューを見ても判断ができません。

隣のテーブルにいた、小さな男の子とおばあちゃんが『琥珀カレー』?
そういうものを頼んでいたので、それを頼むことにしました。

注文したと思っていたら、数秒でカレーが来ました。

ところが来た料理が、全く味がしないのです。
カレーだよね?え、これって本当にカレーなの?
そもそも、何が「琥珀」なの?なんだ?どういうことだ?

ふと、隣のテーブルを見ました。
小さな男の子とおばあちゃんは、ニコニコしながら美味しそうにカレーを頬張っていました。

「おばあちゃん!このカレーおいしいね!」
「そうだねぇ、おいしいねぇ」
「でもなんで『こはく』ってついてるんだろ~?」
「なんでだろうねぇ」
「あっ!ぼくわかった!カレーのいろと、こはくのいろが、おなじいろなんだね!
「そうだねぇ、おなじいろだねぇよくわかったねぇ」

頭をバットでぶん殴られたような強い衝撃が走りました。
カレーの色は黄色。琥珀の色も黄色、だから琥珀カレー。

何故、そんな単純なことに気づかなかった?
何故、メニューを見てずっと判断に迷っていた?
何故、カレーの味がしない?本当に味がしないのか?
あの二人はあんなに美味しそうに食べているのに?
何故、入口で体調について聞かれた?そしてウェイターになんて言った?
日常的に会社で言われている罵倒の言葉を言わなかったか?
何故、注文してから記憶が一切ない?寝てたのか?気を失っていたのか?

気分が悪くなり、頭の中がグルグルしてきたので
トイレに行き、洗面台で顔を洗おうと鏡を見ました。

そこには今にも倒れそうな、ひどく顔色の悪い男がいました。

私は絶叫し、髪をかきむしり、子供のように泣きじゃくりました。


席に戻ると、カレーはすっかり冷めていました。
冷めてはいましたが、味はハッキリとわかりました。美味しい。
琥珀色のカレーは、ここの名物だったんだ。
十数分前にはほぼ全く気づかなかった店内の内装、BGM、周囲のお客さんやウェイターの動き・表情など。すべてを理解できるようになっていました。

気分が一新され、生まれ変わったような気分になりました。
『憑き物が落ちた』を体感しました。

よし、会社辞めよう。
やってられん。給料貰ったら辞めよう。

午後の営業回りは『行った事にして』。
ハイテンションで併設されてるリトアニア館でワイン買って温泉行って休憩室で仮眠して駅前のカラオケ行って、道の駅でお土産買って直帰しました。

ルート報告と訪問報告書はでっち上げました。

タイミングというのは重なるもので。
数日後、前代未聞の大事件が起きました。
支店長から
「今度の土日は休みにする。会社に対してそれぞれ考え、辞めたいやつは辞めろ。すぐに受理する」と言われたのですぐに辞める事にしました。

辞めた後、すぐに別の会社に無事就職!

・・・とは、簡単にいきませんでした。
なんせ、前代未聞の大事件だったので。
それと、精神的な不安もあり、なかなか仕事が決まりませんでした。

そうそう。勤めていた会社は辞めてから数年後に潰れました。

飲み会の席や会話の中で「新卒で入った会社を数か月で辞めた」と言うと大体が「モッタイナイ」とか「根性がない」とか「若気の至り(笑)」などと言われますが、さすがにあの環境では精神的・肉体的に限界がありました。

自分で思い出しながら書いていますが
「幸せそうにカレーを頬張る男の子の、何気ない発言で泣き崩れ、現実を見つめ直す」という経験は、貴重な経験でした。


この間、部屋を掃除していたら当時、社内の飲み会中?に撮った写真が出てきました。痩せてて我ながらイケメン!

失礼。『やつれている』自分がそこにいました。

まさかその後、気づいたら25kg以上も太り、オッサン化しているとは思わないんだろう。
この写真の若者には、『想像していなかった未来』なんだろうな。そう思いました。

閲覧、ありがとうございました。

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