
31文字で気持ちを表現する超絶技巧!! 【100分で名著】『伊勢物語』
相手に自分の真剣な気持ちを伝えるのって難しいですよね。伝えるのに字数制限があったらなおさらです!伊勢物語には31文字で表現する和歌が出てきてきます。31文字という限られた字数で相手に気持ちを伝えるため、削ぎ落とされた文字で美しい文にして詠むのです。
SNSや日常会話を分析すると大体偏った決まりきった言葉しか言っていない自分に気づき、語彙力のなさに落胆します。相手に伝わらないとさらに落ち込みます。
伊勢物語を読むと相手のことを真剣に思い、伝える大切さと表現力が学べます。特に美しく伝える表現が学べました。読んでて思ったのは、美しい文を書くには日常の小さな美しさに目を向けて表現をすることで身につけられるのだと思います。日々の積み重ねが重要だと感じました。
今回、2020年11月に放送していた『100分で名著』の『伊勢物語』を読みました。今回の指南役は高樹のぶ子さんです。
ちなみに、高樹のぶ子さんは、『小説伊勢物語 業平』(日本経済新聞出版)の著者で、和歌への解説もされており、特に背景や描写の解釈が面白いです。
『伊勢物語』は、古今東西大好物の話題である純愛や三角関係などの恋愛エピソードが盛り込まれています。ただ、他と違うのは、純粋に相手を思う気持ちを31文字の和歌に収めて伝えているところです。エピソードの間に出てくる和歌は一気に弾きこまれます。普段の恋愛にも活かせるところも多くあり勉強になりました。
【100分で名著の番組構成】
第1回 「みやび」を体現する男
第2回 愛の教科書・恋の指南書
第3回 男の友情と生き方
第4回 歌は人生そのもの
ざっくり『伊勢物語』について
ところで、伊勢物語といえば、「むかし男ありけり」という物語のでだしを国語の時間に覚えさせられました。『竹取物語』と似た出だしなので妙に頭に残っています。
しかし、伊勢物語と聞いて思い出すのは、在原業平がでていて、作者不明くらいです。それ以外はわかりません。どんな物語かわからないので少し調べてみました。
・かな文字創成期の傑作で平安時代の「みやび※」な世界を記述
※ものの趣を解し、けだかく、動作なども優美なこと、上品で優美なこと
・恋愛、旅の情緒、友情の機微とういう125の独立した短いエピソードと和歌で構成されている日本最古の歌物語
・数多くの恋愛エピソードがあり、のちの『源氏物語』『好色一代男』に影響を与えたといわれています。
・おそらく在原業平が主人公(作者ともに不明)
【在原業平】人柄がよく、男女ともに好かれる男
在原業平は、貴族だったが、お爺ちゃんの平成天皇が弟の嵯峨天皇との戦に負け没落し、貴族から離れ、在原姓になり和歌を作って生活します。伊勢物語では、もともと貴族であり、教養もあり、イケメンだったため光源氏並みにモテ、たくさんの友人がいる人気者だそうです。
初めの話『初冠』で、女性に一目ぼれをし、柵から覗いている元服した男。そして、服の袖を破り、そこに恋歌を書いて送ったこの人こそ在原業平でした。
現代でしたら、道路から覗き、メッセージとLINEIDを教えたところでしょうか?今なら警察呼ばれそうですね(笑)そういう平安時代の恋愛が分かるところもこの物語の魅力です。
ちなみに、この物語では、運命と呼ばれる①藤原高子(3~6段)②恬子(やすこ:69段)という2人の女性がいます。どちらも、格差恋愛ですが、特に、藤原高子とは、在原業平が没する56歳(880年)まで支えたといわれています。
次から紹介された2つのエピソードを書きます。
【東下り】恋に破れ逃れた先にの「かきつばた」
まずは、『東下り』です。概要は次の通りです。
妃候補の人と恋をする
→強大な勢力に阻まれ辺境の地東国へ
→常に都にいる恋人に思いを馳せる
→途中三河の国(現在の愛知県)で休んでいるときれいな「かきつばた」を発見
→旅仲間の一人が、かきつばたを頭文字にして和歌を詠もうと提案
→下のような超絶技巧の和歌ができた
からころも
着つつなれにし
つましあれば
はるばる来ぬる
旅をしぞ思う
ざっくりした意味:着慣れたからころもは、長年寄り添った妻のよう、長旅でそのことを思う
意味が深いですが、「かきつばた」という美しい花を見て、あいうえお作文のように作成するのは、難題だったと思います。
実際に「かきつばた」で和歌をつくってみました!
「かわありて きのうのように つまおもえば はるはもうすぐ たびをしてまつ」
難しいいです。意味を聞かれると繋がらないところが多い・・・
自分が置かれた状況をしっかりと把握し、旅で思う女性のことや心境を取り入れているから心に響く歌になったのでしょう。
この和歌がきっかけで、尾形光琳は『八橋図屛風』を制作したといわれています。
【井筒】妻の愛を感じて・・・
次に『井筒』です。エピソードはざっくりこんな感じです。
幼馴染だった男女が結婚
→妻の親がいなくなりお金が無くなる(当時妻側の親が夫婦の面倒を見る)
→夫が他のところにいる女性のところへいって戻らない(当時通い婚が当たり前で戻ってこない)
→しかし、妻は怒らない
→逆に、夫がほかに男がいないか怪しむ
→いったふりをして様子をみている
→おめかしをし始め外をぼーと眺めている
→そして、以下の和歌を妻が読む
風吹けば沖つ白浪龍田山 夜半にや君がひとり超ゆらむ
※ざっくりした意味:風が吹くと白波がたつ険しい龍田山を夜に一人で超すなんて心配だ
→夫は感動して愛おしくなり妻のもとへ
現代では、通い婚がなく、世間から批判を受けたり理解されませんが、自分から気持ちが離れているのに夫を案ずる優しさと心の広さや相手を突き動かす表現力に感服します。
相手のことを真剣に思い、伝える大切さと表現力が学べる
文字数の決まっている和歌の中で、自分が置かれた状況、相手が置かれた状況、そして、相手への思いを凝縮して31文字に纏め・伝えて、人の心を打つのは、純粋に凄いと思いました。
今ざっくり書いているだけでも、ちょっとうるっときてしまうほど、心を動かされます。
自分の考えたこと思ったことを適切な言葉に当てはめるには、想像力と語彙力がなければできません。かきつばたを見ただけで唐ころもと妻を掛け合わせ、旅の胸中を表現するところ、自分のもとを離れている夫に対しても道中を暗示、優しさを表現して愛おしく思わせる表現力は圧巻でした。なにより、相手のことを真剣に考える気持ちが伝わってくることが凄いです。
時代は変わり、メール等便利になり、情報伝達手段も様々になってきました。
そんな時代だからこそ、相手の立場に立って真剣に考え、そのことをありきたりでない言葉で表現することが大事だと感じました。