三島由紀夫の最高傑作であり問題作!! 【100分de名著】『金閣寺』
今回『100分で名著』(2021年5月放送)は2021年で没後50年となる三島由紀夫の最高傑作でもある『金閣寺』です。
指南役は、小説家の”平野啓一郎”さんで、番組中「美しい文体とレトリックがいい。暗い内面のコントラストが魅力」と語っていました。
三島由紀夫の再来ともいわれた方で、本人も14歳で『金閣寺』に衝撃を受けて、文学の道を辿ったといっています。
平野啓一郎さんは、1999年に『日蝕』で芥川賞を受賞しており、映画化もされ、本屋でも印象的な表紙の『マチネの終わりに』が大ヒットしています。
『マチネの終わりに』は読みましたが、クラシックバイオリニストの話で、芸術的な部分が詩的に描かれており、恋愛模様も書かれており面白かったです。
『金閣寺』については、実際の金閣寺放火の事件を題材にしており、名作だけど問題作くらいしか前提知識がありませんでした。
読もう、読もう、と思っていてもなかなか読めないのが、名著です!
【100分de名著の番組構成】
小説の基本情報
昭和25年(1950年)7月2日に実際に起こった金閣寺放火事件を題材にした小説で、昭和31年(1956年)に文芸雑誌新潮にて連載されものです。金閣の美に魅了された学僧が放火するまでの経緯を一人称告白で記載されたのもので、読売文学賞を受賞しています。
ちなみに、三島由紀夫の作品で一人称で告白しているのは、『仮面の告白』と『金閣寺』だけだそうです。
ざっくり『金閣寺』のあらすじ
小さい頃から金閣の美しさを父に聞かされて日本海で育った溝口(主人公)は、吃音持ちで、体が弱く内向的でひきこもり、孤独で世間から拒絶されているように感じながら生きる。窓からみる有為子(ういこ)に思いを馳せていたが、そこである出来事が起こる。その後、色々な出来事が起こるが、金閣寺という巨大な美の前に色々な思考や出来事が起こり、事件へとつながる。
『金閣寺』の感想
本当に番組だけでも引き込まれましたし、本の『100分de名著』でさらに引き込まれました。
誤解を恐れずにいえば、平野さんが言われているように文体が美しく、クライマックスの表現は言葉で表せないような何とも言えない表現でした。
しかし、素直にそれを受け入れていいのか悩む小説でもありました。読んでいただければわかりますが、放火という犯罪者を描いており、三島由紀夫の思想も入っている小説で、その心理への表現の描写に美しいといっていいのか・・・
確かに、話を読んでいると現代風に言えばサイコパスな部分が多く、そういう心理や思考になり犯罪にいたるのかと考えさせられます。
でも、文体や表現だけ見れば美しいといっていいと思います。
三島由紀夫の人生が反映されている
戦争時代と対峙してきた三島由紀夫さんは、青春時代を戦争と過ごし、兵士として死を意識しながら生活してきたといいます。そして、二十歳のときに終戦を迎えます。
戦争体験については、多くの本で書かれているように、戦後どういきるかという葛藤や新時代という平和で戦争を忘れたのかと錯覚するような世間とのギャップにおける葛藤などが書かれている小説だと思います。
三島由紀夫は1970年11月25日に自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決します。享年45歳。
戦争で生き残ったから生きなくてはいけない、社会でうまくいかないことを美としての金閣に重ねていたのではないのでしょうか。
キーワードは『美』
小説をめくると『美』と『金閣』という文字が多くでてきます。
番組では、平野さんが「心象の金閣と現実の金閣のギャップ」という表現を使い「美への嫉妬」を初めて金閣を見たときの感想とその後に変わる印象の金閣に注目して解説しており、非常に面白かったです。
『美への嫉妬』、『絶対性を滅ぼすこと』という解釈もあり、小説を読むにあったて重要な考えだと思いました。
また、「100分de名著」での『金閣と溝口との関係』についての解説も必見です。
南泉斬猫(なんぜんざんみょう)
南泉斬猫(なんぜんざんみょう)という禅の話がよくでてきます。
その中で、『行為の美と認識の美』という解釈を持ち、解説してくれています。これも非常に面白いというか納得でき濃い読書への指南になりました。
改めて「100分de名著」は読みたいけど、読むのに心の準備がいる作品の導入として最高だと思いました。実際に本書を読むときも背景を知っているとより深く読めるため充実した読書になると感じました。