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超短編創作シリーズ「このままで」
私はもっていない
小さい頃から何をするにも2番だった。
最後の最後でとり切れず、スポーツも勉強も恋愛も納得の一歩手前に終わった。
唯一の特別、左利きも、父方の祖母によってなかったことになった。
(私は、小さくずっとそれを気にしている)
昨日連れていかれた飲み会で、着いた時にはすでに左利きが左端に座っていた。
なぜか吸い寄せられるように左から2番目に座った。
座ってみたはいいものの、何を話したらよいか分からなかった。
「左利きなんですね」という言葉がすぐそこまで出たが、抑えた。
私の右利きヒストリーを話してしまいそうだったから。左利きの前で左利きだった話はどう考えてもダサいと思った。
どうやら左利きは、小鉢料理が好きそうだった。とにかくパクパクしていた。
ただ、小鉢とお酒のスピードが速かった割に、すぐに顔が赤くなっていたので、お酒が強くないことが分かった。それでも飲んでいた。
だんだんと赤黒くなり始めた顔をみて、これはもっと食べなければつぶれてしまうと思い、私は小鉢をテーブルからかき集めた。
左利きは、渡す毎度にこちらを見つめ、喃語のような滑舌で「ありがと」と言ってくれた。
そんなことより、小鉢を集めた。食べさせなければ。
私としては珍しく、食い意地が強い女として見えるかもなんてことは思わなかった。
左利きはかき集めた小鉢の半分ほどを私に分けてくれたので私も一緒にスピードが上がった。
確かに、そこのお店の小鉢は全ておいしかった。
5皿目のナムルのような何かを渡した時、名前を聞かれた。
そういえば言っていなかったと思いつつ、すでに目がとろけ始めていたので、親から聞いた名付けヒストリーを位置から話してみた。
大きめにうなずいてはいたが、もう覚えてはいないだろう。
結局、7皿ほどの小鉢を集めたところで目をつむってしまった。
最後の「ありがと」は7回目だからわかるほどに、より形を成していなかった。
ただ、私の努力は「気が付いたら家」として結果を成しただろう。
つられた私も飲むスピードに負けかけて、帰りの記憶はとぎれとぎれだった。そんなふわふわとした意識の中、小鉢集めに気を取られて名前も連絡先も聞いていなかったことを思い出しながらベットに伏せた。
後日、SNSで知り合いのフォロワーをたどったが、それらしき人を見つけることはできなかった。
やっぱり私はもっていなかった。