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【クルツゲ】希ちゃん(891文字)

あからんだ空が窓からみえたのでおばあちゃんは明日は雨になると言った私は床にねころがったままぼんやり西の空を見たあんなに明るい空から曇った空を想像するおばあちゃんは大人だなあと思ったのを覚えている今となってはおばあちゃんは施設に入り施設に入れたことはとても幸運なことらしいけれど会うことはほとんどないお父さんたちは会いに行っているから言えば私も会えるのだけれど週末は友だちと遊びに行ったり勉強したりしたいしなによりお母さんが会うことを望んでないような気がするのでこれまで何も言わずにいた

こんなことを思い出したのは目の前の空が鮮やかな赤色だったからだ希ちゃんが言うもう一日終わりだね私は何も答えずに窓越しに西の空を見ている先に立って歩いていた希ちゃんが振り返る希ちゃんが人気者であることがその振り向き方でも分かるなんとなく振り向いてくれて嬉しいそれにいい香りがする私はそれを口にしたくなるけど勇気が出ずでも嬉しさのあまりにやにやしてしまうねえ清水さん知ってるこういう空の次の日は大雨になるんだよ希ちゃんが鮮やかに赤い空を指さすコツコツと希ちゃんのヒールの音がひびいてそれが駆け足になり柔らかい素足が床を打つ音床の固さ車がぶつかる音いや窓ガラスが割れる音希ちゃんは砕けたガラスを踏みつけていく私は床に寝ころんだまま知ってるよと答えるおばあちゃんみたいなこと言うねかなり先の方を歩いていた希ちゃんに追いつくとああもう日が暮れちゃったねほんとだね山の方はまだあからんでいるけれどこちらではもう紫色と灰色が垂れ込めているじゃあまた明日うんと言って手を振る

希ちゃんは地下鉄の黄色っぽい光の中に降りていくもうヒールの音は聞こえない私はもう雨の中歩いているような気分でなんで希ちゃんは私のような暗い人間と仲良くしてくれるのだろうとときどき思い出したように唱えながら歩いて帰るいつか彼女が私の部屋に来ることがあるのだろうかと私は床に寝ころがったまま考えるそんなことはないという否定より先に自分の巣を彼女に見られる恥ずかしさがやって来る翌日確かに大雨になって希ちゃんは天気予報士になろうかなと言った

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