タゲブフ

入るとごく狭い居住空間。テレビの前のこたつにみんなで入っている。ここから他人が入ってくるのに慣れているらしい。通り道なんだろう。
一番しっかりしてそうな家計を切り盛りしてるだろう女の人が「どうぞ」という。そう言われても通れるところが、彼らの上半身とこたつとの間くらいしかない。彼らの背後はすぐ敷居になっていてというか敷居の上に座っていて襖も閉まらないほど。で、襖のうらに廊下らしいものはあるけど、とても狭く雑然と物が置かれ、しかも片側は崖のようになっている。
再び催促されて、私は謝りながら通り抜ける。実家から外に行くのだ。私は独り言や鼻歌が多いので、こたつの年寄りは不審気に見てくる。でも、悪意がないのは伝わっている感じがする。玄関前で、さっきの女の人と話す。見送られて外に出ると、実家によく似ている。ただ、大きな池、というか養殖用の池のようなものが、壁の外に広がっている。少し傾いてるけどまだ明るい陽と、まんまんたる水。広い空。しばらく見つめていると、旦那さんらしい男の人に話しかけられる。

車のドアが盗まれていた。悲しく、情けなくなる。お前はひとりで生きていくことはできないから戻ってこいというKの言葉を証明するみたい。こんなの盗まれるわけない、と油断して、鍵も掛けていなかった。思慮が足りない、肝心なところが抜けている、一人で生きていくことができない。腑甲斐ない気分。父親に報告する。張り紙の話。側のカーブミラーに、綺麗に濡れているというような張り紙があったらしい。ドアはもう消耗していてなんとかという部品は取り替え寸前だった。それなのに、それすら確認せずに盗んでいったのは、張り紙のせいだ。張り紙のせいで、立派な車に見えたのだ、と言う。父は車を運転していて、私をどこかへ送っている。父はあのドアは替えが少なくなっているとかいくらかかるとかいう話をする。私は縮こまる。同時に、長いこと自分の車には乗れなくなるなあと思う。鍵をかけてなかったと告白すると、不用心さを責められるだろう。「かけたはずだけどなあ」と紛らそうか。いややっぱり正直に言おう。

これは昨日の6/13

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