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なむさんは、ナマケモノです🦥

タイに仕事で滞在していた時のこと。お世話になったマンションの大家のワンチャイさんは、中国系タイ人でニダーさんという美しい妻がいました。日本語が少し話せて、アイスクリーム工場の社長だと聞いています。ワンチャイさんの普段着はいつも、白のTシャツにステテコのようなタイパンツです。

「ニダーさん、いつもキレイね~。」

みんなでそういうと、誇らしげで満足そうな顔をするオーナーでした。
ある休みの日、ふと思い立ち、ニダーマンションの屋上に行きました。夜のマンションの屋上は、思っていたより静かでした。濃いピンクのブーゲンビリアが一面に咲き乱れていたのが幻想的で、夜風が気持ちよかった……。

(わぁ、素敵。お気に入りの場所になりそう。)

その時だ。ぴたりと静止した人影をわたしはみた。逆三角形の「頭立ちのポーズ」をしている男の人を。スーッと天に伸びた長い二本足。ヨガのサーランバジールシャーサナというポーズでした。

「なむさんこんばんは」
「ひぇー。あ、あれ?」

それは、ワンチャイさんでした。毎晩この時間、一人でヨガをやっているとのこと。

「なむさんも、ヨーガをしませんか?」

それがきっかけで、同じマンションの日本人の女の子に声をかけ、五人のヨガ教室が始まりました。屋外でのヨガは楽しかった。初めは、みんなでワイワイやっていたが、

「ゴメン、やっぱり毎日はきつい」
「今晩、デート。すまない……」

メンバーは一人減り、二人減り……。気がつくと、ワンチャイさんとマンツーマンのレッスンになっていました。

「なむさん、背中をまっすぐ!」
「首をもっと伸ばすと、しわがなくなりますよ」

片言の日本語で熱心に教えてくれた。ワンチャイさんが毎日食べているという精進料理「小豆粥」の味も、忘れられない。
それでも、わたしも、夜だらだらとテレビをみたりして、たまにめんどうになる時があった。そんな時は、部屋の電話がなっても居留守を使い、ヨガのレッスンをサボった。
朝起きて、出勤する時は、ワンチャイさんに、会いませんように……そんなことを、願いながら、一階にそろりそろり。大抵、受けつけの所で待ち構えているワンチャイさん。

「なむさんは、ナマケモノです!」

どこで調べたのか?でもハッキリというこの言葉に驚き、そしておかしかった。
帰国する時も、「ヨーガを続けて下さい」いうポストカードとタイシルクのヨガパンツをくれた。
ヨガは今でもポツリ、ポツリつづけている。頭立ちのポーズは出来そうもない。優しくてそして厳しかった、わたしのタイの師匠、お元気ですか?

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