一分小説『ー1秒』
秒針を眺めていると、カチリと、テッペンの12にたどり着いた直後、
左回りに1秒動いた。
カチ、カチ、カチ……
何事もなかったように、秒針は再び右へと進み出し、テッペンの12を越えていっ た。カチ、カチ、カチ……。
私は、それを机の上で一人見入った。目をまん丸に見開いて。
まるで、一瞬時が止まったようだった。
「それでは、連立二次方程式を使うと、こうなるから……」
ハッとして、ぐるぐると周りに視線巡らせる。先生は手元を、クラスメートはノートか前後左右の友達か、美人の高杉さんに目を向けるばかりで、私は焦燥と共にあたりをもっと見渡したがそこには平穏な数学の授業しかなく、いまの物理学的1秒の目撃者も、証拠もない。
不調、故障、閏秒、
それらしい理由は思いつく。けれど、なぜ巻き戻るのか。
どの程度であれ奇跡であり、次第によっては数字の0より異常な発見であり。
しかし、目撃者は私一人…であり……
そんな机の木目を見つめ続けた私が、またハッと顔を上げたのは、高杉さんと目があったから。
時が止まったみたいだった。
彼女は確かに私を見て、笑っていた。
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