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観光庁「ガイド人材に求められるニーズ調査」から考えること

今年5月に、観光庁国際観光部国際観光課から、「ガイド人材に求められるニーズに関する調査結果」が公開されました。
 
これは、観光庁が3月に訪日外国人を対象に実施した、ガイドに対するニーズ調査の結果をまとめたもので、通訳案内士にとっては、どのようなサービスを提供するべきかという課題解決へのヒントとなる、大変有益な資料です。ガイドの方は、ぜひ一読されると良いでしょう。
 
ただし、こうした資料を読むときには、いろいろと注意すべき点もあります。調査というのは様々なノイズやバイアスが含まれている可能性があるからです。今回の記事では、この調査結果からわかることや、通訳案内士が参考にできることは何かを、考えてみたいと思います。


最初に調査方法、実施要領を確認する

 
こうした調査レポートを読む際に、気を付けるべき点があります。よく、結果の概要だけを伝えた簡易的なまとめ記事がネット上に掲載されたりしますが、必ず原典にあたるべきです。そこには、まとめ記事ではわからない重要な情報が載っていることがあるのです。今回の「ガイド人材に求められるニーズに関する調査結果」の報告書は、以下のリンクから入手できます。
 
ガイド人材に求められるニーズに関する調査結果 観光庁
 
最初に調査時期を確認すると、今年の3月上旬ということがわかります。桜シーズンの前ですね。次に調査方法です。資料によると、羽田と関西の両空港、それに京都駅と浅草とあります。サンプル数は関西空港と浅草とが多いです。浅草は団体観光客の比率が比較的高いところであり、その影響があるかもしれません。また、調査で言う「ガイド人材」は、いわゆる通訳案内士のようなガイドを対象としていると見られます。
 
方法は調査員が直接質問をして回答を得ているので、それなりに正確な回答だろうと思います。回答者の国別のデータも載っていますが、訪日客全体の国別の人数比率と、大きな差はありませんでした。
 
つまり、主に大都市観光地に来るお客さんを対象にして、あまねく調査を実施したという感じであり、大きなバイアスとなる要素は感じられないとわかりました。それでは具体的に内容を見ていきましょう。

どういう層がガイドを利用するか

 
まず、ガイドを利用したことのある人の比率が全体の17.4%とあります。国別の数字出ていませんが、経験上アジア近隣国からのお客さんはガイド利用率が低いので、欧米からの訪日客を対象とすれば、比率はもう少し上がります。おおよそ上位2-3割のお客さんがターゲットになると考えておけばよいでしょう。
 
そして興味深いのは、ガイドを利用した方の96.4%が「利用して満足」と答えており、80%を越える方が「また利用したい」と言っていることです。通訳案内士の皆さんは、もっと自信を持ってよいと思います。これから言えることは、「自分」を売り込める形で仕事をすれば、過去のお客さんからの紹介が期待できるということです。
 
逆に、ガイドを不要とする方々の考え方も重要です。ガイドを利用しない最大の理由は、「インターネットで観光情報を入手できる」でした。つまり、ネットで入手できるのと同じレベルの情報を提供しても、評価されないのです。歴史的事実や数字を伝えるのではなく、自分独自の歴史観や価値観を伝えなければ、ガイドとしての意味は無いと言えるのではないでしょうか。

ガイドに求められる2つの要素

 
最後に、ガイドに最も求められるものは何か、を見ておきたいと思います。これには、スキルとマインドの2つの要素があるようです。
 
まずスキルですが、知識として「文化体験における文化の成り立ちの背景」と「歴史体験における歴史背景」がトップツーです。どちらも「背景」であることが重要で、文化や歴史の事実そのものの情報ではないのです。つまり、WhatやWhen/Whereではなく、WhyやHowの部分を説明できなくてはならない、ということでしょう。ネットで入手できる情報は不要、という前述の説明と表裏一体です。
 
マインドについては、「友好的な姿勢」「話しかけやすさ」が上位にあります。しかしその他にも、「急病・災害等への対応」や「トラブルへの対応」といった緊急時の対応に対する期待も大きいです。また、見落としてしまいがちですが「臨機応変な対応」も90%近い方が重要と答えています。スケジュールに固執せず、柔軟な対応を望んでいるのです。

調査結果から何を考えるか


この調査結果を見て、どう感じましたか?驚くような結果ではありませんでしたが、これまで何となく感じていたことを、再確認できたのではないでしょうか。私個人として、今後の業務展開のうえで重要と思った点を、挙げてみます。

  • 現状、通訳案内士のサービスは、顧客満足が得られている。

  • 通訳案内士は、物事の背景や深層などネットでは得られない情報を提供すべき。またそのことを、ガイドをまだ利用していないお客さんに告知する必要がある。

  • 通訳案内士は、お客さんのニーズが大きい歴史や文化といった分野を深めていくべき。

  • 実際の案内では、柔軟かつ友好的な対応を心掛ける。

といったところでしょうか。

まとめ

 
「観光庁の調査結果から、ガイドへの満足度の高さと、必要なスキル&マインドが確認できた。通訳案内士なら、一度は調査報告書に目を通しておこう。」でした。
 
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