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通訳案内士の車利用解禁!どう活用する?注意点は?

今年3月、国土交通省から新たなガイドラインが公表され、通訳案内士が自家用車等をガイドの際に利用することが認められました。従来は、ガイドでの車利用は明確に禁止されていましたので、これは大きな政策転換です。
 
通訳案内士にとっては、新たなチャンスです。特に地方のフリーランス案内士にとっては、案内時の移動手段の問題を解決する決め手となるかもしれません。また、首都圏や関西圏に住むガイドにとっても、活用できる場面がありそうです。
 
私も今年夏に2回ほど、車を利用して案内をしました。その時の経験もふまえながら、この新たな環境をガイディングにどのように活かしていけばよいか、フリーランス通訳案内士の立場で、お話ししたいと思います。


まずは、新たなルールの確認から


何はともあれ、ルールがどのように変わったのかを確認しましょう。国土交通省が今年3月1日に公表した、国自旅第359号という通達です。
 
国自旅第359号
 
ページ数も多く、文章がお役所言葉で読みづらいですが、一応目を通しておいた方が良い文書です。5ページ目に通訳案内士に関する記述があります。要約すると、「通訳案内士がガイドの際にお客さんを無償で車に乗せる場合は、道路運送法上の許可や登録は不要」ということですね。
 
ですから、自家用車やレンタカーを運転してお客さんを案内してもよい、ということです。運送料金を徴収することはできませんが、ガソリン代や高速料金、駐車料金は請求できると、説明があります。レンタカーであれば、レンタカー代や保険料も請求できます。
 
遡って平成29年8月の通達では、「通訳案内士が報酬を得て通訳案内をする時に、自家用車を使って案内をするのは道路運送法第78条の規定に違反する行為となる」と記されていたので、ガイドラインが180度変わったことになります。人手不足で地方のタクシー台数が減少していることや、インバウンド利用が急増している影響なのでしょう。

余談ですが、従来は通訳案内士がお客さんに代わってタクシーを予約することすら、旅行業法に抵触するのでは、と言われていました。ですが自分で運転しても良いなら、タクシーを予約することが問題になるはずがありません。今回の方針転換をもって、この問題に決着がついたと思っています。

地方のガイドには朗報。都市部のガイドにも活用機会あり


訪日客の中には、車での観光を希望する人が一定数いますが、ハイヤーの一日チャーターは6万円ほどにもなり、結構なハードルでした。これがガソリン代程度で済むのであれば、お客さんにとっても、ハイヤーをチャーターするよりも、はるかに安い費用ですみます。レンタカー利用だとしても、十分安くあがります。
 
そもそも地方都市では、広い範囲を効率よく廻るには、車が不可欠です。特にクルーズの寄港地などは、港に車がなければどうにもならないことも多いでしょう。その一方で、タクシーの台数が少なく、予約が困難だったりします。こう考えると、地方の通訳案内士さんは、自家用車やレンタカーを積極的に利用しても良いと思います。
 
それでは、東京や大阪などの大都市の場合はどうでしょうか?私は、大都市では自家用車やレンタカーを利用することは、基本的にないと考えます。
 
一番の理由は、駐車場の問題です。ハイヤーと違って、必ず駐車場所が必要ですが、便利な場所は、空いていないことが多いです。もう一つの問題は、時間が読みづらいこと。いつ渋滞に巻き込まれるかわからず、予定が狂ってしまうリスクがあります。お客さんの人数にもよりますが、都会では、必要に応じて流しのタクシーをつかまえれば十分とも言えます。
 
ですが、郊外を案内する場合には、話が違ってきます。最近の箱根や日光は、ピーク時のハイヤーの予約が非常に困難です。箱根などは、利用一週間前からしか予約を受け付けてくれないので、直前まで車の手配ができず、とても使い勝手が悪いです。こうしたこともあり、私は今年の夏、郊外でのガイドに2回レンタカーを利用しました。後ほど少しお話しようと思います。

気を付けましょう、事故と時間


車利用の場合のリスクも考える必要があります。先ずは交通事故です。お客様を乗せているのですから、絶対に事故は避けなくてはいけません。普段から車を運転していない方や、運転が苦手だと自覚している方は、避けたほうが無難です。運転中に会話することもあるので、運転にある程度習熟している必要があります。
 
また万一への備えとして、十分な額の任意保険への加入は絶対必要です。自家用車の場合、用途をレジャー用として保険契約していると思いますが、保険会社に確認したところ、業務利用が全体の半分未満であれば、現在の用途のままでOKという返事でした。週1-2回の利用であれば、問題は無さそうです。(念のため、ご自身の保険会社に確認してください)
 
レンタカーの場合であれば、標準の付保条件に加えて、CDW&NOCというオプションに加入しておくと、事故の際の自己負担額が無くなり安心です。保険料は、経費としてレンタカー代やガソリン代といっしょに、お客様に請求させてもらいましょう。
 
もう一つのリスクは、車は渋滞等により、予定時間に戻れない場合があるということです。予定の列車に乗り遅れる、クルーズの場合は出港時間に間に合わず置いてけぼりになる等、大きなトラブルになります。港から遠い場所を先に案内し、早めに港付近に戻って近場を観光するといった工夫が必要でしょう。
 
事故や遅刻といったトラブルを防ぐのに効果的なのは、やはり事前の下見です。今の車はナビが搭載されていますが、慣れない道は、どうしても不安な運転になります。ガイドに下見は必須、事前に車で下見をして、道を頭に入れておくことを強く勧めます。私は、この下見を怠ったため、大きな失敗につながってしまいました(後述)。

私の体験談


車利用が解禁になったので、私も今年、2回レンタカーを使って案内をしました。いずれも東京都心ではなく、それぞれ宇都宮と日光でした。現地まで新幹線で移動して、駅近くのレンタカーを利用しました。どちらも最初は現地タクシーを予約しようとしたのですが、空きがなく、やむなくレンタカー利用となったものです。
 
運転には慎重を期さねばならないと思い、マイカーと同じ車種の車を借りられるレンタカー会社でレンタルしました。全く知らない車だと、操作に不安を感じて、運転に集中できないためです。レンタカーの場合は、できれば自分が普段運転している車を借りましょう。
 
ここまで考えて対策していたのですが、落とし穴がありました。宇都宮は元々あまり詳しい地域でなかったので下見をしたのですが、日光は何度も行っていて分かっているつもりで、下見をしなかったのです。
 
そして、その問題は日光で起こってしまいました。道を正しく覚えていなかったため、最後に駅と反対方向に走ってしまったのです。道が狭くなってきたので途中で気付き、慌てて方向転換をしたのですが、その時に道路の法面に車体をこすって傷を付けてしまったのです。そしてそのままレンタカー屋に戻ったところ、傷を指摘されてしまいました。
 
保険には入っていたのですが、それを使うには、どんな些細な事故であっても、警察の事故証明が必要だということです。現場に戻って警察を呼び、証明してもらわないと、保険がきかず自己負担になるのです。作業には少なくとも一時間は掛かると思われ、予定の新幹線に乗れなくなってしまいます。
 
ですが、自己負担ともなれば、10万円を超える出費になるかもしれません。この状況で、私は自分だけ残って事後処理をする道を選びました。お客さんに事情を説明し、鉄道のチケットを渡して自力で東京に戻ってもらい、ツアーはその場で終了することで了解してもらったのです。
 
幸い、往路を逆に帰る行程で旅行者にも簡単だったことと、ハプニング好きなお客さんであったため、楽しみながら無事に帰ることができたようですが、本当に冷や汗ものです。事故処理には一時間強を要し、私は一人自由席で帰京することとなってしまいました。
 
ここでの教訓は、①ちゃんと下見をしておけば良かった ②保険はCDW&NOCにしておいて良かった ③どんな小さな事故でも警察の事故証明が必要で、手続きには時間が掛かる ということでした。本当に事故を起こさぬよう、しっかり下見をして、慎重に運転すべきです。それでも事故が起きた時に備えて、保険にはしっかりと加入しましょう。

まとめ


「通訳案内士が車を利用してガイドできるようになった。特に地方のフリーランス案内士に大きな恩恵がある。ただし、絶対に保険に加入し、事故や遅刻をしないよう十分に気をつけよう。」でした。
 
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