幼児退行江戸紀行

これは移動時間に本を読む私のお話。

私の住んでいる地域から東京に行くまでの移動時間はトータルで二時間ほどある。若くても、さすがに電車で二時間立ちっぱなしはキツいので空いている席に小走りで向かって腰を下ろした。その席は、右側におじいちゃん、左側におばあちゃんが座っているといった、老人サンドウィッチの状態。そして驚くべきことに、二人ともスマホなんぞ持たずにデカめの路線図を広げているのだ。デジタル化が進む現代でこんなアナログな人間が生きているとは!!と少し驚くと同時にやわらかな気持ちになった。私は少し口元が上がり気味のまま本を開いた。今回の旅のお供は、星の王子さま。私が最近ずっと読んでいる本だ。私が星の王子さまの世界に身を投じていると、何か手元に視線を感じる。ん?なんだろう?と思い、両隣のおじいちゃんおばあちゃんを見ると私が開いている本を読んでいるではないか。ただ、私はそこまで気にしなかった。でも、すこーしだけ、ほんのちょこっとだけ、気になることがあった。それは、私が一頁の四分の三くらいまでを読む間に二人は読み終わってしまうのだろう。二人が焦れったい顔をしてこちらを見つめてくることだ。あと、各シーンで二人とも私と同じ反応をしてくること。

わあ、なんてかわいらしいんだろう。

思わず、かわよって声に出ちゃった。うん。もはや私には二人が幼児にしか見えなかった。うんうん、星の王子さまっていいよねぇ、と心のなかで二人に話しかけながら、私は両隣の二人に読み聞かせをするような気分で本を読み終えた。隣を見ると、満足そうな顔をした幼児(おじいちゃんとおばあちゃん)がいた。なんだろう、今すっごく幸せ。幸福感に満ち溢れてる。そこで思ったことがある。いつだって世界に必要なのは、この二人のようなちょっとおちゃめな可愛らしい人と、その人たちが作り出す幸せな雰囲気なのではないか、と。

最後に右側のおじいちゃんに一つ言いたい。おじいちゃん、ここは新宿じゃないよ。渋谷。新宿は一個手前だよ。

本に夢中になりすぎるのは良くない。

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