すごく面白かった

彼の書く小説は、自分に酔いきった脚本家が書いたドラマのシナリオのようだった
嘘くさくて稚拙な台詞
地の文はつらつらと長いだけで気を付けても目が滑る
描写もいちいち大袈裟で読んでる此方は全くついていけない
素人が児童向けの安い芝居を演じているような粗末さは一級品だといえる
ハッとすらならない至言のような台詞を思い付いた彼のしたり顔が頭に浮かんで思わず鼻白んだ
ホチキスで纏めた原稿の束を渡して、黒い瞳を幸福に煌めかせていた彼は一体どんな気持ちでこの小説(ゴミ)を書ききったのだろうか
彼でない私にはそんなもの分かりようもない
けれど多分、今頃彼はスマホを片手に着信が来るのを待っているかもしれない
私は捲り終わった原稿の束をゴミ箱に落とし、傍らに置いていたスマホを取った
ロックを外して、画面をなぞって、表示された彼の名前をタップする

「あ、もしもし?小説読んだよ」


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