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これを読めば、生き物を保全する人々の気持ちが丸わかりになる記事
生き物を保全する動機を4タイプに分類してみました!
これを読むことで、今まで全部同じに見えていた生物保全活動に携わる人々がいかに多種多様で、実は全く違う信念に基づいて活動しているかが分かります。
さっそくですが、生き物を保全する動機の大部分は、以下の4タイプに分けられます。
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①改修タイプ:人々の利益が最大になるように自然をコントロールしたい
②伝統タイプ:自然が作り上げてきた文化・伝統を守りたい
③愛護タイプ:自分が好きな生き物に特権を与えたい
④拡大タイプ:生き物にまで人権を拡大させたい
この4タイプは、「生き物にどれだけ共感できるか」を縦軸、「文化・伝統」と「平等」のどちらに重きを置くかということを横軸にしています。
ちなみに、縦軸で意見がぶつかると建設的な議論ができるのに対して、横軸でぶつかると罵詈雑言で溢れ、ななめでぶつかると動機が違いすぎて、相手の主張が理解できず、お互いに「あいつらは何もわかっちゃいない」と言い合うことになります。
ただし、普段はこのタイプだけれど、ある特定の生き物の保全に関してはこっちのタイプになることは誰にでもよくあることです。
ここでは使い勝手の良さを重視して単純化して4タイプをそれぞれ個別の人格かのように扱っていますが、実際は個人の中でももっと複雑な動機が入り混じっているのでその点だけ注意して下さい。
①改修タイプ
改修タイプの人たちは「自然を庭だと捉え、自分たちの庭を手入れして使い心地をよくしたい」と考えています。
考えてみてください。自分たちが住んでいる家にとんでもなく大きな庭がついていたとしましょう。その庭の手入れが全く行き届いていなかったら、なんだか勿体無いですよね。
ある場所には整備されたお花畑を作り、別の場所では飼っている鳥がのびのびと生活できるようにして、またある場所ではあえて木が生い茂った手付かずな状態を保ち、本格的なキャンプが楽しめるようにする。他にも人工的な川を作って、そこで釣りが楽しめるようにしてもいいでしょう。
このような要領で、生き物や生態系を含めた自然全てを「人々を幸福にするための道具」だと考えています。なので、生き物を守ることで、生き物や生態系から得られる恩恵をより大きくしようとしています。
改修タイプのみにみられる特徴として、遺伝子組み換え技術を用いた農業や、遺伝子編集などの技術を用いて絶滅生物を復活させることに対して積極的な姿勢を示します。
また、在来種であるか外来種であるかということをあまり気にしません。生態系から得られる恩恵がほとんど変わりないのであれば、元々その地にいた生き物か、後から人の手によって持ち込まれたかなんて大した差ではないからです。
ここまででわかる通り、改修タイプの生き物の保全の動機は、まるで「街作りゲームで街をさらに発展させようと試行錯誤しているような感覚」に近く、生き物や自然にあまり興味がない人にとっては、4タイプの中で最も受け入れやすいタイプだと思います。
②伝統タイプ
伝統タイプの人たちは「自然の作り上げてきた伝統と文化を守りたい」と考えています。
彼らにとって、生き物や生態系を守るというのは、村のお祭りや風習、方言などを守るのと同じようなもので、伝統的であることそれ自体に尊さを感じます。
歴史の重みを大切にし、川や池や森などを対象に、人の手によって持ち込まれた外来種を駆除することで、その土地を代々受け継いできた在来種を保全する活動について特に積極的なのがこのタイプ。
彼らの主張を聞いていると、地元の伝統行事を何とか存続させたいという地元住民の訴えを聞いているような気分になるのですが、そういった共同体的なものが希薄になりつつある現代において、僕を含めて若者世代には特に、よそから見たらなんともないような土地ごとの伝統や文化を守りたいという気持ちというのは、少しイメージがしづらいかもしれません。
僕の地元のお祭りは少子化が進んでいるせいか、年々屋台の占める面積が小さくなっていき、だんだんとお祭り全体がしょぼくなっているのですが、なんとも言えないあの寂しさみたいなものが伝統タイプの保全の動機の根源なのでしょう。(たぶん…)
このように「もともとその地に存在していた生き物や生態系を取り戻したい」と思っていて、環境破壊を受けてしまった自然を元通りにすることが目的なので、希少な生き物をもっと住みやすいほかの環境に移して保全することや、生き物の遺伝子に手を加えることには反対します。だって受け継いできた伝統を壊してまで残しても意味ないから。
さらに、伝統・文化は一度失ってしまうと二度と取り戻せないので、在来種の生き物が外来種の生き物と交雑してしまった場合には、外来種だけではなく、交雑して生まれた在来種と外来種のハーフも駆除します。交雑するくらいなので、その在来種と外来種は性質が似ていて、場合によっては見た目では判断がつかないのでDNA検査をしないと分からないこともあります。伝統や文化を継承する上で、他の文化と混ざることは悪いことではなく、むしろ自然なことのように思えますが、彼らが守りたいのはあくまで生き物に刻み込まれた伝統的に価値のある純潔な遺伝子なのです。
このタイプは「限定品のレアカードを自分で保存して、きれいな状態を残そうとするコレクター」みたいなものだと思ってもらえると分かりやすいかも知れません。
③愛護タイプ
愛護タイプは「自分の好きな生き物を守りたい」と考えています。
人の手によって絶滅しそうなかわいそうな生き物を守ってあげたい。そのために、その種に対して特権を与えようとします。
このタイプが守る生き物には、親近感が湧くような「人間味」が感じられること、見た目が目を引くようなものだったり、体が大きな哺乳類など目につきやすくて「目立つ」という特徴である種が多くなる傾向があります。身近なもので言うと人里に降りてきた熊の狩猟に反対する活動、他にも野生のチンパンジーの絶滅を防ぐために、森林の再生や保護区を設ける。捕鯨の反対運動も含まれるでしょう。
保護区域のようなものを定めて、そこで絶滅危惧種を保全するというのは、その保護区域の面積分だけ経済発展の妨げになることから考えると、改修タイプの自然から恩恵を大きくするという発想とは真逆に思えますが、その種を保全することによって、人々の満足度が高まるのであれば、あとはその土地を経済発展に使った方が良いのか、それとも保護区域とした方がいいのかは、どっちがより人々の幸福に貢献するかという勘定の問題になるため、実は思想は全く違うものの、実際にはほとんどの場合において、この2つのタイプは敵対しません。ただし、捕鯨の問題に関して、愛護タイプとしては可哀想なので捕鯨なんてゼロであって欲しいのに対して、改修タイプとしては、捕鯨に一定の制限をかけるのはいいけど、適度に鯨を間引いた方が、水産資源が豊富になるのであれば、それを見定めて捕鯨を許可したいと考え、意見がぶつかってしまいます。
愛護タイプの人はこのように、生き物を愛でる気持ち、いうなれば「自分の持っている好きという心の揺らぎ・感情を大切にしたい」と考えていて、自分の心を揺さぶった自分にとって特別な種が絶滅したり、可哀想な目に合っていることが許せません。
このタイプは「推しのアイドルのグッズを買い漁って、そのアイドルを買い支えようとするファン」みたいなものだと思ってもらえると分かりやすいかも知れません。
④拡大タイプ
拡大タイプは、人を含めたあらゆる生き物の命を大切にしようと考えています。
彼らは愛護タイプ同様に、生き物がかわいそうだと感じていますが、守りたい生き物の対象が全ての生き物なので、特定の希少な在来種を保全するために、外来種を駆除することは認めません。なぜなら在来種も外来種も同じ命だから。本人が望んだわけでもないのに無理矢理連れてこられた外来種を駆除するのは、彼らにとっては難民への差別と同じです。
かといって、現実問題として全ての命として扱うことなどできないので、例えば人の人権を1000ポイントだとすると、チンパンジーやオラウータンの人権ポイントは100、イルカやクジラは20、カラスは5、魚は0.01といった具合に、知性の高い生き物から順番にグラデーションの人権を与えることを望みます。
犬は知性が人よりも低いので、暴力を受けた時に、人よりは痛みを感じないだろう。だけど全く無視できないくらいには、苦痛を感じ取れる知性がある。なら犬よりも賢いとされるゾウには、それよりももうちょい苦痛を感じることができてしまうのでもう少し命を尊重する必要がある。逆にタンポポは傷を与えても苦痛を感じないから尊重する必要がない…
このように、人権という「全ての人は無条件に尊重される権利がある。だって人間なんだもの。」というものを、「全ての生き物には人権がある。だって苦痛を感じてしまうんだもの。」と人権の適応範囲を拡大させることが正しい世界のあり方だと考えます。
「人間が一番知的だから、人間の命は尊いんだ」というのであれば、生まれたての赤ちゃんよりは豚の方が知性があります。そこそこ知性がある家畜たち(大型の哺乳類は特に知性が高い傾向がある)を非人道的な飼育方法で、かつ命を奪うことに対する反感を抱くのもこのタイプでしょう。
最後に
ここまで読んでいただきありがとうございます。
生き物を保全する動機の4タイプを知ることで、自分とは違うポジションの保全活動家やその支援者たちの行動原理が分かりやすくなったはずです。
行動原理を知ることで、意味もなく相手を怒らせたりする可能性が下がり、生き物の保全に関わる人たちと付き合いやすくなる事でしょう。