イタズラなKiss 最終話の続き(5)
「あら、琴子ちゃん。おはよう」
「おはようございます」
「まだ寝ててもいいのに」
「お母さん、あの、ちょっと聞きたいんですけど……」
ちょっと改まって、あたしは話を切り出した。
「お兄ちゃんと裕樹の名前の由来?」
「はい。どうやって決めたのか、参考に聞きたくて」
ソファーに座ったあたしは、お母さんに改めて相談するのが、ちょっとくすぐったくて、頭に手をやった。
「うーん。そうねえ」
お母さんは昔のことを思い出すように、目を動かした。
「琴子ちゃんも知ってると思うけど、あたし、女の子がほしくってね。女の子の名前しか考えてなかったの」
お母さんは残念そうな顔をした。
あたしは苦笑いをした。
「だから、男の子が産まれて、突然名前を決めなくちゃならなくて。だから安直だけど、パパの字をもらったの」
「そーいえば、おじさんの名前って……」
今まで知らなかったかも。慌てたあたしは青ざめた。
「重樹っていうのよ。あまり、みんな呼ばないしね。樹っていう字を、引き継がせたかったみたいでね」
「そうだったんだ……」
「お兄ちゃんには、真っ直ぐに育って歩んでいってほしくてね。でも、あんなに何でもできて、真っ直ぐなだけじゃ、人生つまんないでしょ。お兄ちゃんは、あーなっちゃったけど」
(あーなっちゃったとは……)
あたしは淡々とかたるお母さんに、汗をかいた。
「裕樹には、お兄ちゃんの反省もあって、もっとこう、起伏はあっても、豊かに、ゆとりのある人生を送ってほしくて、つけたのよ」
「そうだったんですか」
「今はいーわよねぇ。早めに性別が分かって」
お母さんの話を聞きながら、あたしは思った。
(そうなんだ……。お父さんの名前からかあ。そういえば)
あたしは気づいた。
(あたしも、お母さんの「子」をもらってるんだ)
☆彡
「入江くん。ちょっといいかな?」
「何?」
机で本を広げていた入江くんは、あたしに向き直ってくれた。
「赤ちゃんの名前なんだけど」
にこにこ笑顔のあたしに
「飽きねぇな。お前も」
入江くんはあきれてる?
「うん。あのね。ちょっとお母さんとお父さんに、あたし達の名前の由来を聞いたの」
「……へー」
「入江くんと裕樹の由来は、入江くん、知ってるよね。
あたしの「琴」を調べたら、琴の弦ように芯のある人になるようにって意味もあるんだって」
「へえ」
「あと、しとやかで古風な趣のある人に育ってほしいとか」
「ぶっ」
「何で笑うのよ」
「いや」
吹き出した入江くんを睨んだ。
「あと、あたしの「子」なんだけど、女の子にありがちだから、お母さんにもらったともいえなくもないんだけど、
調べたら‘’はじめから終わりまで。一生‘’って意味があるんだって」
「ふーん」
顎を拳にのせながらも、入江くんは聞いてくれてる。
「で?」
「それでね。男の子だったら、直と樹のどちらかを。女の子だったら、琴か子のどちらかの文字をいれたら、どうかなって思ったの!」
「いーんじゃない」
「へ」
「何だよ」
「え、てっきり古くさいとか、今どきじゃないとか、言われるかなと思ってたから」
あたしは後ろ頭をかいて、頬を赤らめた。
「あたし達、直樹と琴子って名前で出会ったでしょ。そのことを、赤ちゃんにも伝えられたらって思ったの」
「理美の占いだと、星占いも、血液型も、六星なんとか?も相性最悪だったけど」
てへへと笑うあたしに
「四柱推命だろ」
「よ、よく、覚えておいでで」
「いーよ。お前がそこまで考えたなら」
「入江くん…」
あたしはうれしくなって、調子に乗った。
「でも、だから、なおちゃんって呼ぶ名の可能性もなきにしもあらずなの」
「だっ……だからっ!!」
今宵も仲睦まじい二人(三人?)の部屋。
(きっと、素敵な名前を見つけるね。入江くん)
あたしは、始終にやにやしてた。
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