Rasta Man Chantに関するあれこれ
明かされた正体
Rasta Man Chant (ラスタマンの歌)というそのものズバリなタイトルのこの曲、今回はやっぱりラスタについて書かないとダメですよね。
「ラスタって一体何?」という素朴な疑問に答えるところから始めたいと思います。
ラスタとは?
ラスタファリ(Rastafari)とは、1930年代にアフリカ系ジャマイカ人の間で生まれた宗教です。
新約と旧約の聖書、黒人解放運動家マーカス・ガーヴェイの預言、 黒い王ハイレ・セラシエ1世に対する敬意が信仰のベースになっています。
アフリカへの帰還、菜食主義、白人中心の社会システムとの闘いもラスタファリの基本です。
ラスタファリを信じ、実践している人は、自分たちのことをRasta(ラスタ)と呼びます。
ラスタは、1975年に亡くなったエチオピア皇帝ハイレ・セラシエ1世を全知全能の神Jah、Jahの化身、イエス・キリストの再来、あるいはJahが彼らにもたらすパワーと恵みの象徴と信じています。
彼らは、マーカス・ガーヴェイが預言した「黒人の王」である故ハイレ・セラシエ1世をRas Tafari(即位前の名)と呼び、この名前を使ってJahに祈りをささげます。発音は「ラスタファーライ」です。
聖職者や独自の経典が存在しないため、聖書に書かれている内容をクリエイティブに解釈し、さまざまな形で実践しています。
ざっくりとまとめるとこんな感じです。
マリファナの使用や独特の髪型など誤解されやすい点が多いラスタについて限られたスペースで説明するのは不可能です。
なので新マガジン「基礎から学ぶラスタ」を立ち上げ、別途そちらで少しずつ解説していくことにします。
話をボブに戻します。
20代前半から天国に旅立つ約半年前(35歳)までボブはラスタでした。
聴けばわかると思いますが、Rasta Man Chantはルーツレゲエではありません。ラスタの音楽Nyabinghi (ナイヤビンギ)です。
ナイヤビンギとは?
ラスタの集会Grounation(Groundationとも言います)で歌われ演奏される宗教音楽のことです。
語源は18世紀に東アフリカ、現在のウガンダあたりにいた女王の名前らしいです。
経緯は不明ですが、ラスタファリ運動初期、リーダー格のアフリカ系ジャマイカンたちが自分たちの呼び名として使い始めました。
Elders(長老)と呼ばれる彼らを中心にしてNyabinghi Order(ナイヤビンギ・オーダー)という信者の群れが形成されていきました。
ナイヤビンギ・オーダーは、現在4つある主要ラスタ集団の中で一番規模が大きなグループです。
メンバーは共に集い、祈りを捧げるため、Grounationを開きます。
そこでは必ず歌と演奏とマリファナが用いられます。
この記事では、ラスタ集団「ナイヤビンギ・オーダー」ではなく、音楽の方のナイヤビンギ(略称ビンギ)について説明していきます。
歌と太鼓
ナイヤビンギの歌はchantと呼ばれる独特の歌い方です。単調な旋律を繰り返し全員で歌うスタイルです。
歌詞は旧約聖書に収められたPsalms(詩篇)とヨーロッパから入ってきたプロテスタントの讃美歌を自分たちの信仰に合わせてアレンジしたものです。
伴奏はリズム楽器のみ。西アフリカ伝来のパーカッションを3種類ワンセットにして使います。
3つの太鼓は大きい方からbaandu(base、thunder)、funde、akete(kete、repeater)と呼ばれます。
Baanduが一番音が低く、funde、aketeの順で音が高くなっていきます。
演奏例をYouTubeから紹介しておきます。
Grounationでの演奏。
映画Rockersのオープニング(リズムをキープしたまま途中からルーツレゲエに移行)。
基本的な太鼓の叩き方はこんな感じです。
ボブとナイヤビンギ
ボブが初めてGrounationに参加したのは1968年、23歳の頃と言われています。
でもラスタが拠点としていたトレンチタウンの住人だったため、もっと前からナイヤビンギには親しんでいたと思われます。
ナイヤビンギやGrounationは、所属集団や信仰のあり方を超え、すべてのラスタに開かれているもので、誰でも参加できるものです。
当初ナイヤビンギ・オーダーの一員だったボブは、アルバムNatty Dreadがリリースされた1974年頃、Twelve Tribes of Israel (イスラエルの12部族)というキリスト教に近い教義内容を持つ新興ラスタ集団に加わっています。
ですが、イスラエルの12部族に参加してからも、ボブはラスタ仲間と集まってJahに祈りをささげるためにナイヤビンギを演奏していました。
ナイヤビンギは、ルーツを大切にしているアフリカ系ジャマイカ人にとって生活や文化の一部なんだと思います。
ラスタであるなしに関わらず、いろんなアーティストが自作曲に取り入れています。
キャリアのかなり初期にイスラム教に改宗したジミー・クリフもナイヤビンギ成分100%のこんな名曲を録音しています。
レゲエとは別の「ラスタファリが生み出したもうひとつのジャマイカの国民的音楽」、それがナイヤビンギなんだと思います。
最後にあまり残されていないウエイラーズによるRasta Man Chantの貴重な演奏映像を貼っておきます。
Baandu担当はピーター・トッシュ。ボブはfundeで「タンタン、タンタン」というゆったりしたナイヤビンギのハートビートをキープ。その上にバニー・ウエイラーの代役でUSAツアーに参加したジョー・ヒグスがaketeで絶妙なアクセントを加えています。
母なるアフリカとジャマイカをつなぐ「赤い糸」=太鼓のリズムと共に今回はこのへんで~