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Roots, Rock, Reggaeに関するあれこれ


同じ歌詞

これは最初にリフが出てくるタイプのナンバーですが、そのすぐ後に続く歌詞がボブの旧作Rainbow Countryとまったく同じです。

具体的にはこの部分です。

Hey, Mister Music,
Sure sounds good to me
I can’t refuse it
What to be got to be
Feel like dancing
Dance ’cause we are free

メロディはまったく違います。聞き比べてみるとおもしろいです。

この流用部分、特に哲学的でも詩的に美しくもない「よくある歌詞」です。

Hey, Mr. Music!という呼びかけから踊りたくなるだろ?というダンスへの誘いにスムーズに展開していく軽めの歌詞をなぜ引っ張り出してきて再使用したのか?そこにこの曲のポイントがあります。

個人的こだわり

ラスタメッセンジャーとしての役割を自覚していたボブは自分の音楽をもっともっと多くの人の耳に届けたいと願っていました。

彼は特に北米のブラック・ミュージック・リスナー獲得にこだわっていました。

商業的な野心だけでなくボブには個人的な想いもあったようです。

既に母親はアメリカに移住していました。自分も渡米してデラウエア州に住む母親の家に滞在して移民するチャンスをうかがいながら、労働者としてアメリカで暮らした経験があります。

肌が黒いだけで「自分たちが何者なのか」わかっていない、欧米の文化にどっぷり浸かって生きてきた仲間たちに「こころの眼」を開き、「自分たちがどこからやってきたのか」知り、「自分たちアフリカ系の民の価値ある文化や歴史を学び、劣等感ではなく誇りを持って生きてほしい」そう願っていました。

突破口が必要

そんな具体的メッセージを込めて曲を作っても、聴いてもらえなければ意味がありません。

ボブたちウエイラーズが契約していたレコード会社Island Recordsは欧米のロックマーケットには確固とした足場を築いていましたが、残念ながら北米のブラックミュージック市場に食い込んでいくのに必要なノウハウや経験に欠けていました。

そこでボブは自己CMソングのようなこのRoots, Rock, Reggaeをシングルとしてリリースして自力で突破口を見出そうとしたわけです。

1976年当時レゲエはまだまったく「売れる音楽」ではありませんでした。

エリック・クラプトンがカバーしたI Shot the Sheriffの記録的大ヒットによってその存在こそ知られるようになっていましたが、ジャマイカ人レゲエ・アーティストによるヒット曲はゼロでした。

そしてアメリカのポピュラーミュージック市場には強力な競合相手がひしめいていました。

強力なライバル

1976年のBillboard Hot 100(売上上位シングル100曲のランキング)を見ると次のようなナンバーがチャート上位を占めています。

ボブのターゲットR&Bラジオでもビッグネームがハイペースでシングル曲をリリースしていてエアプレイ獲得競争は熾烈でした。

参考までにこの年Roots, Rock, ReggaeとR&Bラジオのプレイタイムを争っていた強力なライバル曲をいくつか貼っておきます。

充実しまくったラインナップです。新しい音楽=レゲエなんか聴く必要ないよ~と言われても仕方ないようなタフな状況だと思います。

開拓者ボブ

そんな中でエアプレイを勝ち取っていったボブはやっぱりスゴイです。

今でこそ両手で数えきれないぐらいたくさんあるボブのヒットナンバーですが、生前ボブがBillboard Hot 100圏内に送り込んだ唯一のシングル曲がこのRoots, Rock, Reggaeです。

最高位は51位。年間チャートではHot 100圏外でしたが、のちに世界中で大ヒットとなったThird WorldTry Jah Loveが最高101位止まりだったのを考えるとまさしく偉業だと思います。

ちなみにラスタ思想を歌詞のテーマに据えたレゲエ=roots reggaeというジャンル名もこの曲のタイトルからのちに生まれたものです。

もう知らない若い人も多いと思いますが、レゲエというのはボブが歩いた後に道ができていった音楽です。

誰も歩いたことがなかった荒野を歩いて後続アーティストのためにマーケットを開拓したボブ。商業的な意味でも今だにワン・アンド・オンリーな存在です。

それじゃ今回はこのへんで~

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